マイク・ダントーニ

写真=Getty Images

ハーデンも心酔「喜ばせてあげたいと思うタイプの人」

昨シーズン球団記録となる65勝を挙げ、西カンファレンス首位でレギュラーシーズンを終えたロケッツの中心は、ベテラン選手で構成されている。ジェームズ・ハーデン、クリス・ポールを軸とする彼らは、NBAの荒波を乗り越えてきた精鋭揃いだ。

もっとも、経験豊富な個性派たちを一つのチームとしてまとめ上げるのは簡単ではない。ヘッドコーチのマイク・ダントーニの人心掌握術は、選手への信頼で成り立っている。

ダントーニとの良好な関係について、ハーデンは、『Houston Chronicle』にこう語る。「マイクは僕たちに、好きなようにやらせてくれる。彼は素晴らしいコミュニケーターなんだ。僕やクリスとだけではなくて、ロスターに登録されている選手全員とコミュニケーションを取っている。15人全員とコミュニケーションを取ってくれるコーチなんて最高だよね」

「マイクは天才なんだ」と、ハーデンは指揮官への心酔ぶりを語る。「僕がこれまでの人生で出会った中でも最高にクールな人。彼はバスケットボールを理解しているし、話の要点も分かっている。怒鳴らないし、冷静。喜ばせてあげたいと思うタイプの人。何でもしてあげたくなる」

ダントーニは、サンズ時代を振り返り「何かを決める時は、常にスティーブ(ナッシュ)に任せていた。誰が決定を下すかによるが、私はジェームズとクリスを完璧に信頼している。彼らに決定を任せることは、簡単に決められた」と話す。

「相手のプレーへの対策を指示する時、選手にアイデアがあれば聞く。それが機能しなさそうな指示なら、コーチにダメな理由を説明したがるものだ。大事なのは、全員が同じ方向を向くことなんだ。だから我々は、どんなことでも話し合う」

昨シーズン、長期間の遠征が続いた際、試合後すぐに次の街に移動するか一泊するか、選手の意見を聞いて決めていたという。シーズン序盤には行っていた試合当日のシュート練習にしても、シュート練習をしなかった日のほうが個人的に調子が良く、チームも勝っているために取りやめたのだが、それも選手と話し合った上での結論だった。

ダントーニは言う。「全員が納得するには時間がかかった。ルーティンを好む選手たちがシュート練習を支持していて、ジェームズは納得していなかった。でも我々は、全員で決めようとしている。もし選手たちが疲れていて練習できないなら、やらなければいい」

「私が気にするのは、試合なんだ。試合になれば、選手たちはしっかりやってくれる。そう信じている。クリス、ジェームズ、PJ(タッカー)、クリント(カペラ)のような選手がいてくれるおかげで、しっかりやれている」

選手とコーチの信頼関係という話になれば、今シーズンのロケッツには一つ不安要素がある。それは、ニックス時代に折り合いが悪かったダントーニとカーメロ・アンソニーの関係だ。当時は最終的にダントーニが辞任する形でチームを去ったのだが、優勝候補のチーム内で内紛を起こすわけにはいかない。だが、今のところは心配なさそうだ。カーメロは、ダントーニが選手たちに責任を与えている部分を尊敬していると話す。

「マイクのことで尊敬しているのは、選手たちに責任を課している部分。コーチによって考え方も違うけれど、たいていは細かく指示を出して、威張っている場合が多い。選手に責任を課さず、決まりきったことしかしない。でもマイクは違うんだ。彼はチームの状況、選手たちの個性を理解している。僕たちはプロだ。お互いに責任をもってやっている」

ダントーニの手法は、決して珍しいものではない。選手を信頼し、尊重するコーチは他にもいるが、ダントーニと同等のレベルで実行できている指導者は他にいるだろうか? クリス・ポールはこう話す。「僕らは全員が同じ方向を向くために、話し合って決めるんだ」

選手の自主性を重んじるロケッツならではのチームワークを武器に、今シーズンも打倒ウォリアーズに挑む。