齋藤拓実

サイズの不利を上回る『司令塔としての判断力』で代表候補入り

齋藤拓実は2018年の春、アルバルク東京に特別指定選手として加わった。明治大での活躍から、Bリーグでも即戦力と期待されたが、同じポイントガードに安藤誓哉と小島元基がいて、厳格なルカ・パヴィチェヴィッチが指揮を執るA東京は、ルーキーにとってはプレータイムを確保するのがリーグで一番難しいチームだった。レベルの高いチーム練習に身を置き、出場した短い時間でアピールをしたものの、特別指定からプロ契約に立場を変えた2018-19シーズンも自分の居場所を確保するには至らなかった。

それでも、2019-20シーズンに滋賀レイクスターズにレンタル移籍で加わると、若手に大胆にチャンスと責任を与えるチームで彼は大きな飛躍を果たす。A東京にいる間に繰り返していた「強度の高い練習は自分の成長に繋がっている」との言葉は嘘ではなかった。齋藤の最大の長所は司令塔としての判断力。力強いボールプッシュでアウトナンバーを作り出し、自ら仕掛けてフローターなど精度の高いフィニッシュに繋げられることで、プレーの選択肢を自ら広げられる。その中で常に冷静に周囲の状況を見極めて次のプレーを選択できるのは、A東京の強度の高いディフェンスに日々揉まれた経験があってこそだ。

滋賀での彼は全41試合に先発出場し、26.0分のプレータイムを得て13.0得点、5.4アシストを記録。それまでB1残留に汲々としていた滋賀を一つ上のレベルへと引き上げた後、名古屋ダイヤモンドドルフィンズへとさらなる活躍の場を求め、昨シーズンも上々の結果を残している。

もっとも、日本代表には縁がなかった。東京オリンピックまで日本代表ヘッドコーチを務めたフリオ・ラマスはチームの大型化を掲げ、ポイントガードも190cm代の選手を求めた。富樫勇樹だけは主力であり続けたが、逆に言えばサイズのない選手がもう1人加わる余地は残されていなかった。この間、齋藤は代表入りについて「優勝してナンボの世界で、日本代表のポイントガードの選手はみんな自分のチームを勝たせて、強豪チームに定着させています」と語り、富樫との比較については「僕が日本代表に入るには、名古屋Dでのプレーで富樫選手を超えないといけないと思っています」と思いの丈を明かしている。

それでも、フリオ・ラマスからトム・ホーバスに指揮官が代わったことで、日本代表の選手選考の基準も変わった。ホーバスが打ち出すのは『ハイスピード』のバスケであり、サイズよりも別の部分でメリットがあれば招集する。こうして、過去には学生チームしか代表経験のなかった齋藤が代表合宿に招かれた。

齋藤は大学時代から常に『チームを勝たせるポイントガード』を意識している。だから自分のプレーの内容やスタッツにこだわることはあまりなく、チームが勝てたかどうかを常に気にする。その姿勢は日本代表でも変わらないだろう。新戦力の台頭は日本代表をポジティブな方向に変える。今回の代表候補には楽しみな名前がずらりと並ぶが、その筆頭が齋藤拓実だ。日本代表のユニフォームを着た彼がどんなプレーで『チームを勝たせる』のか、期待を込めて注目したい。