「この舞台でプレーできること自体が貴重で、一つも無駄にしたくない」
オーストラリアリーグでのプレーは、アメリカの大学やGリーグよりも『NBAの準備』に向いているのかもしれない。昨シーズンのラメロ・ボールに続き、今シーズンもNBLで経験を積んだ選手がルーキー・オブ・ザ・イヤーの候補になりそうだ。サンダーが1巡目6位で指名したジョシュ・ギディーは、開幕からここまでシェイ・ギルジャス・アレクサンダーとガードコンビを組み、ルーキーにもかかわらず怖いもの知らずのプレーでNBAにインパクトを与えている。
エネルギー全開でフィジカルなプレーに挑むのはサンダーのチームカラーだ。まだ19歳のギディーはチームメートと比べて明らかに線が細いのだが、積極的にドライブを仕掛け、ズレを作ってのパスでアシストを量産している。10.1得点、6.1リバウンド、5.9アシストはルーキーとしては十分すぎる数字。シュート確率は全体的により上げていくべきだし、ターンオーバーも軽率なものは減らせるはず。それでも今は、NBAの経験豊富な選手が相手でも仕掛け続ける積極性の方が評価される。
オーストラリアNBLのアデレード36ERSで1シーズンを過ごしたことで、プロのバスケは経験済み。そのメリットをシーズン序盤から生かした形だ。オーストラリア出身のパワフルなガードとしては、ベン・シモンズとプレースタイルが似ている。強気のドライブで自ら仕掛けてチャンスメークし、一方でシュート力に課題を抱えるのは共通点。シモンズは今、トラブルの真っ只中にいるが、ギディーがこれからどんな成長を見せるのかは興味深い。
彼のドラフトには面白い逸話がある。ドラフト当日に名前を呼ばれるまで、ギディーはサンダーに指名されることを知らなかった。彼が事前にワークアウトに参加したのは、サンダーとウォリアーズだった。サンダーは指名について何の約束もしなかったが、7巡目指名権を持つウォリアーズはスティーブ・カーがギディの能力に惚れ込み、代理人に指名の意向を伝えていたとされる。
すぐに勝つことを考えればウォリアーズに行くべきだっただろうが、ギディーは「夢のようだ」とサンダーからの指名を喜んだ。サマーリーグはケガでほとんどプレーできなかったが、プレシーズンを通じて良いトレーニングを積んだ。開幕前のギディーは「若いチームで結束力がある。NBAの試合の流れにフィットできるよう頑張って練習しているけど、みんな僕を助けてくれる」と語っている。
もしウォリアーズに指名されていれば、シーズン序盤にこれだけプレータイムを得られることはなかっただろう。そしてサンダーのスタイルは間違いなく彼にフィットしている。
「すべての経験が僕の成長に繋がる」とギディーは言う。「大事なのは経験から学び、成長すること。僕らは若いチームだから、試合展開に応じてどんなプレーをするかは相手の方がよく知っていることが多い。競った試合を落とすこともあるだろうけど、どんな試合からも学びを得たい。1試合の勝ち負けで世界が決まるとは思っていないよ。この舞台でプレーできること自体が貴重で、僕はそれを一つも無駄にしたくないんだ。そういう意味では、ウチのマインドセットはすごく良いと思う。負けた翌日、フィルムセッションでみんな何かを得ようと必死だからね。そうやって前に進んでいくんだ」
若い選手、特にルーキーに過剰な期待は禁物だが、NBAデビューから半月にしてギディーはシェイに次ぐ攻めのオプションになっている。どんな状況からでもチャンスを作り出すハンドリングとパスセンスを持ち、落ち着いてプレーできる。サイズのない相手なら強引にフィニッシュに持っていくし、サイズのある選手はドライブでかわしたり、引き付けてパスを出して攻略する。NBAのリズムに慣れて自信が高まれば、さらなる活躍も期待できる。サンダーはまた一人、『NBAの宝』を手に入れた。