比江島慎

写真=Getty Images

ワールドカップ予選で『発掘』されたBリーグMVP

今オフに比江島慎が移籍したオーストラリアリーグ(NBL)に所属するブリスベン・ブレッツは優勝3回を誇る古豪チームだが、ここ10年は苦しい戦いを強いられている。いや、戦う権利さえなかったと言うべきだろう。球団史上3回目の優勝を果たした翌年の2008年に財政難が表面化。経営権譲渡の交渉も行き詰まり、チームは活動休止に追い込まれた。

転機となったのは地元の有志による活動だった。SNSで「ブリズベンにプロバスケットボールチームを取り戻そう」という声が大きくなった結果、ブレッツは2016年にNBL復帰を果たした。その後は2シーズン連続で最下位に低迷しているが、2018-19シーズンに向けてロスターに大改革が実施され、風向きは変わりつつある。

ブレッツの指揮官アンドレイ・ラマニスは、新チームの柱としてリーグ優勝5回の実績を持つミカ・ビュコナを獲得した。チームのアイデンティティ構築が成功の鍵になることを信じているラマニスは、自分がトッププレーヤーへと育てたビュコナに全幅の信頼を置いている。

そしてもう一人、ラマニスの『切り札』と呼ぶべき存在が日本からやって来た比江島慎だ。これまで日本の選手を獲得しようとするNBLの球団はなかったが、ラマニスはオーストラリア代表を率いてアジアを戦う中で比江島を『発掘』している。6月にオーストラリアは日本に78-79で競り負けたが、それ以前から指揮官は比江島の才能に目を向けていた。

「オーストラリアにとっては厄介な存在だ。ピック&ロールのパサーとして優れており、オープンな状態なら3ポイントシュートを決められる。そしてディフェンスも良い」

NBLではアジアもしくはオセアニア出身の選手に適用される『アジア選手枠』が各チームに1つある。ラマニスはそれを使って比江島をチームに迎え入れた。実際にどれだけのパフォーマンスを見せるかはまだ分からないにせよ、日本の安定した環境を飛び出してNBLに挑戦する比江島の意志の強さをラマニスは高く買っている。

「比江島のような選手と一緒に仕事をしたくない人間などいない。チームのために犠牲になることを厭わず、自分の目標を達成するため、実力を試すために快適な環境を捨てられる選手だ。そういう姿勢を持った選手を獲得できたことに興奮している」

リーグ復帰から3年目を飛躍のシーズンとするための戦力は整った。NBL挑戦を決意した日本のエースが、指揮官の期待に応えられるかどうか。敵地でブレイカーズと対戦するブレッツの今シーズン開幕戦は、10月11日に行なわれる。