アデトクンボを納得させる戦力を整え、NBA制覇へ
バックスがプレーオフで負けた時、「ああ、やっぱりな」という感想を抱かずにはいられませんでした。素晴らしい効率性を誇る戦術を構築したものの、ヤニス・アデトクンボの重要性が高すぎ、また柔軟性を欠くスタイルだっただけに、ヒートの策にハマってしまうと抜け出せなかったのです。
オフになるとバックスからは「クリス・ポールを獲得したい」という噂が頻繁に流れるようになりました。アデトクンボへの依存度を下げ、ディフェンスの状況に応じて適切な判断ができるポイントガードの補強は理にかなっています。その案は素晴らしいものの、トレードを成立させるだけの交換要員を準備できるとは思えず、バックス側の妄想でしかないように見えました。
アデトクンボの再契約問題もあって、優勝のための大型補強が至上命題。しかしミルウォーキーという地方都市に大物フリーエージェントが集まる可能性は低く、トレードに打って出るにも他のチームから求められる選手が少ないという難しい状況でした。
それでもトレードが解禁となると、クリス・ポールの獲得こそできませんでしたが、噂以上の大きなトレードを実現させました。バックスのフロントは驚くべきスピードでチームを改革し、リーグ最高レベルの戦力を揃えてきたのです。チームが出せる交換条件をすべて飲んだようなトレードからは、何よりも優勝を狙う確固たる決意が感じられます。
まず獲得したのは、多くのチームが狙っていたとされるドリュー・ホリデーでしたが、交換要員としてエリック・ブレッドソーとジョージ・ヒルの両ポイントガードに加え、3つのドラフト1巡目指名権をつけました。実力はあるもののプレーが単調なブレッドソーを欲しがるチームは少ないため、引き取ってもらうために指名権をサービスしたのかもしれません。いずれにしても将来を捨ててでも勝負に出た印象が強いトレードです。
ホリデーはリーグ最高のディフェンダーであるだけでなく、巧みなドライブによって勝負どころで個人技から得点できる選手です。攻守に優れたベテランは大きな戦力アップとなる一方で、チームに柔軟性をもたらすタイプではなく、100点とは言い難い補強でしたが、続けざまにボグダン・ボグダノビッチのトレードまで実行したことで、100点を大きく超える補強となりました。
コンビプレーから崩し、ジャンプシュートで得点するボグダノビッチは、これまでバックスにはいなかったタイプのガードです。ディフェンスの逆を取るプレーも得意で、オフェンスに様々な変化を付けることができます。単調だったオフェンスが止められても、個人技で突破できるホリデーとチームオフェンスを柔軟にするボグダノビッチの両ガードを獲得できたことは、長所を伸ばし、同時に弱点も補う素晴らしい補強です。
ボグダノビッチも多くのチームが狙っていたとされる選手ですが、ドンテ・ディビチェンゾ、アーサン・イリヤソバ、DJ・ウィルソンの3選手を交換要員として放出しました。これでホリデーとボグダノビッチのために5人の選手と3つの指名権を手放したことになります。選手層には不安が残りますが、強力なスターターを揃えたことでフリーエージェントを惹き付けることにも繋がります。
2年連続でレギュラーシーズン最高勝率を残しながらファイナルにも進めなかったことで、バックスは『プレーオフで勝つための戦力』に集中し、豪華なスターターを揃えることにこだわった印象です。東カンファレンスのライバルチームを大いに焦らせるような、これまでのバックスのイメージを覆す衝撃的なトレードでした。