ドノバン・ミッチェル

ロジカルなチームオフェンスと伝統的なディフェンスが犠牲に

若きスターが生まれ続けるNBAですが、プレーオフ進出チームでエースとして輝く若手となるとその数は限られてきます。特にウォリアーズを中心に回っていた近年は、2010年前後にドラフトされたステフィン・カリーの世代と、その上のレブロン・ジェームスの世代が覇権を争ってきました。ドラフト上位指名される有望な若手ほど、チームがプレーオフに出場するまで時間がかかることもあって、ポストシーズンで大活躍するケースは珍しいと言えます。

しかし、今シーズンはルカ・ドンチッチを始めとして、チームを牽引する若手が増え、新時代が切り拓かれようとしています。プレーオフで徹底マークされながら勝敗の責任を負う経験は、選手としての成長を加速させるはずです。ジャマール・マレーと激しい戦いを繰り広げた末、敗退することになったジャズのドノバン・ミッチェルは、エースとして迎えた3年目のプレーオフで確たる成長を見せ付けました。

ルーキーだった2シーズン前、ゴードン・ヘイワードが移籍したことで空席となっていたジャズのエースの座に収まったミッチェルは、ジャズのロジカルなオフェンスにおける異分子として、個人技で得点を重ねました。時にワガママに、時に失敗もしながら、強い気持ちを前面に出したプレーは、瞬く間にユタのファンの心をつかみました。

迎えたプレーオフではルーキーとは思えないスーパーエースっぷりを発揮し、ラッセル・ウエストブルック、ポール・ジョージ、カーメロ・アンソニーという上の世代の3人のスーパースターに対して真っ向勝負を挑み、1人で勝負を決めた印象すらあります。シーズンで活躍し、プレーオフでさらにステップアップするミッチェルは、他の若手有望株よりも多くの経験を手に入れました。

すでにプレーオフでの実績があるミッチェルは、今回のナゲッツとのファーストラウンドが始まる前から「プレーオフになったらさらにステップアップする」ことは予想できましたが、それをはるかに上回る衝撃的なパフォーマンスを見せました。しかし、彼が平均36.3得点を挙げながらもチームがファーストラウンドで敗退したことは、ジャズが置かれた難しい状況を示してもいます。

ヘッドコーチのクイン・スナイダーから「ワガママにプレーすることが役割」と発言されるほどにミッチェルは個人技でディフェンスを攻略していきますが、通常であればチームオフェンスを展開したほうが効率的に得点が奪えます。実際にジャズのロジカルなオフェンスは芸術的でさえあり、ギリギリまでミッチェルの出番がない方が理想的です。

リッキー・ルビオがポイントガードをしていた頃はミッチェルがボールを持たずともチームオフェンスが成立していました。ところが彼がケガで離脱が増えた頃から様相が変わり始めます。マイク・コンリーが加わっても改善することはなく、判断力が必要な起点役もミッチェルが担当することが増え、ロジカルというよりはミッチェルに頼るような構成になっていきました。その結果がプレーオフの個人パフォーマンスに繋がったのです。ミッチェル個人としては大いに成長したものの、チームとしては方向性が乱れてきています。

同じことはディフェンスにも表れており、ルディ・ゴベアは個人としては強力なリムプロテクターとして変わらないものの、シューター系統の選手を増やしたことで伝統的なチームディフェンスは綻びを見せ、オフェンスで上回らないと勝てなくなってきました。『ディフェンスのチーム』というイメージとは裏腹に、実際には守り切れない試合が増えています。ミッチェルが57点を奪いながら敗れた試合は、現在のジャズが抱える問題点が浮き彫りになっていました。

ロジカルなチームオフェンスと伝統的なディフェンスが失われつつあるジャズ。ミッチェルの成長が補うことで好成績を維持していますが、優勝を目指すには改革が必要でしょう。来オフになるとコンリーとゴベアは契約が切れ、ミッチェルはマックス契約が濃厚なため、方向性を変更するならば、今オフが動くべきタイミングです。

ディフェンス強化に軸足を戻すのか、それともオフェンス志向を強めるのか。ミッチェルをエースとすることは変わらないものの、チームとしてのビジョンを見直さなければいけません。