田中敬

報徳学園は4年ぶり2回目の出場となった2018年のウインターカップでベスト8に進出、昨年大会でもベスト8に進出した。また昨年のインターハイでは4強まで勝ち上がった。1年生から主力としてプレーしていた選手たちが3年生となった今年は『勝負の年』。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によりインターハイの開催が見送られ、このウインターカップが最後の大会に。「1回しかない全国大会に懸ける気持ちは大きい」と語る田中敬コーチに、チーム作りのポリシーと大会への意気込みを聞いた。

「今のチームで彼らの3年間のピークを作りたい」

──昨年のウインターカップでは準々決勝に進出しました。その時の主力選手が複数残っており、今年は楽しみなチームです。

そうですね。丸山賢人、宇都宮陸、コンゴロー・ディビッドが3年で、今はテーブス流河が1年生ですがスタートで出てポイントガードの仕事を勉強中です。今の3年生は1年の時から試合経験を積んでいる選手たちです。彼らの代になって新型コロナウイルスでインターハイがなくなってしまったんですけど、ウインターカップでは予選が始まっているので、今のチームで彼らの3年間のピークを作り、最高のパフォーマンスができるようにしたいと考えています。

──過去2年のウインターカップではコンゴロー選手がサイズとパワフルなプレーで大きな注目を集めました。

もともと身体は強いのでゴール下で仕事ができて、相手が留学生でも10リバウンド、20リバウンドは平気で取る選手です。それでも本人は「去年のままではいけない」と感じていて、アウトサイドから攻めるスキルの習得に余念がありません。彼の今後も考えたらそれも必要ですし、そのエリアからアタックできる留学生はなかなかいないので、チームにとってもプラスになります。ペリメーターからのシュート、ドライブを意識的に練習していますし、少しずつできるようになっています。

──丸山選手はいかがでしょうか。

3ポイントシュートには絶大な自信を持っていて、ダンカン・ロビンソンみたいなクイックで打てるようになっています。もともと早くリリースできるフォームですが、チェックが入っても打ち切れるようになってきました。チームとしては丸山に打たせるのがリズムであり、それが落ちてもボールを拾って丸山にもう1本打たせることが生命線になります。

──昨年は宇都宮選手がゲームメークをしていました。テーブス選手が入っても、宇都宮選手の試合作りは大事ですよね。

宇都宮は攻めるポイントガードです。ただ、コロナが明けてからはアタックとチャンスメークのバランスがすごく良くなりました。練習ができない間にたくさん考える時間があったのが良かったのかもしれませんが、自分で行くタイミングと他の選手に攻めさせるタイミング、止めてセットする判断が良くなりました。宇都宮のコントロールがすごく効くようになって、ディビッドも丸山も安心してプレーに集中できている雰囲気があります。ここに流河が加わって2ガードの安定感が出てくれば、チームのオプションはもっともっと増えます。

田中敬

「自覚を持ってバスケに取り組む選手たちをサポートしたい」

──テーブス選手はいかがでしょうか。お父さんは経験豊富なヘッドコーチ、お兄さんは宇都宮ブレックスでプレーするテーブス海で、大きなポテンシャルを秘めているように感じます。彼はどういった経緯で報徳学園に入ってきたんですか?

流河が小学校3年生だった時、私の息子とミニバスで同じチームだったんです。流河は小3の時から1人で5人を抜いてレイアップに行くみたいな子でした。お父さんもよく来られていました。お父さんは覚えていないと思うんですが、現役時代に対戦相手として一緒にプレーした経験があるんですよ。それはブロンコスを辞めてこっちに来てプレーを続けていた時ですね。そんなわけで以前から顔見知りではあって、そういう縁でウチに来てくれました。

流河だけでなく宇都宮も丸山もデイビットもそうですけど、一流選手として扱ってあげないといけない部分もありますし、高校生として扱わないといけない部分もあります。私生活の面で指導するのは当たり前ですが、バスケに関しては感性が鋭い子なので、それを尊重して、感じたことを表現できるようなチームオフェンスやディフェンスを作っていきたいです。

──個々のタレントの力はかなりものだと感じます。あとはウインターカップまでにチームとしていかにまとまるかですね。

今の選手一人ひとりの持っている力は素晴らしいものがありますし、そういった強力な個性を持つ選手たちを繋ぐ選手たちも着実に育っています。繋ぐ選手というのが今のところ3人います。

キャプテンの松岡太陽は、自分で目立つこともできるし他に華を持たせることもできるポイントガードで、何と言ってもディフェンスのスペシャリストです。相手の1番2番には松岡を付けます。同じく岡村星来もエースキラーで、丸山やデイビッドと同じ高須中で全国3位になった時の選手なんですけど、170cm台後半でフィットネスがあり、IQがすごく高い。外回りの繋げる選手です。そして2年生の中野椋太は、全員3年生だった去年のパワーフォワードが抜けた後に頭角を現しました。細身ですがよく走れるしオフェンスリバウンドにも絡んで、デイビッドへのパスもハイローのコンビネーションが良くなってきました。丸山、宇都宮、デイビットの繋ぎになる意識でプレーするこの3人が、チームケミストリーを生み出してくれています。

コートに立つ5人が5人、自分の役割をしっかり分かってプレーできるようになっています。まだまだ伸びしろはあるのですが、今の時点でも練習やゲームで十分楽しんでもらえるチームになっていると思っています。選手たちは本当に自覚を持ってバスケに取り組んでいるので、徹底的にサポートしてあげて優勝を目指したいです。

田中敬

「1回しかない全国大会に懸ける気持ちは大きい」

──全国制覇を狙う上でのライバルは東山ですか、福岡第一ですか。

全チームがライバルだと思います。明成、開志国際、中部第一、大濠も強いですよね。逆にここで名前が挙がったような強豪と対戦ができることにワクワクします。自分たちの良いところを出し切ることができれば、どこが相手でも良い勝負ができるはずです。大御所の先生たちが率いる強豪のバスケは本当に勉強になりますし、私個人としてはゲームの中でも盗めるものは盗みたいと思っています。ただ、試合をやる時には誰がコーチで相手がどこだろうがかだ勝ちに行くだけですね。

──全国優勝を目指すほどのチームということは、兵庫県予選は圧勝できそうですか?

ぶっちぎるつもりです。決勝がどこのチームと当たるとしても、やってみなければ分からないし油断はできませんが、圧倒しなければいけないと思っています。

──ウインターカップまでに改善しないといけない課題はどこにありますか?

一人ひとりができてしまう分、最後に2点を取りに行く場面で攻め急いでしまう。これは去年のウインターカップでも見られた課題です。拮抗した展開の中で、得点が欲しいばかりに攻め急いでしまい、単発にシュートを打ってしまうことがありました。そうじゃなくてチームとして手を加えてディフェンスを崩してオープンショットで2点を取りに行く、その判断をしなければいけない時に簡単に点を取りに行ってしまう。勝負どころでチームとしてオフェンスをする、守る時は守り切る。そういう成熟はもっと必要だと思います。

今年はインターハイも近畿大会もありませんから、そういう経験がないまま自分たちと同じ実力を持つチームと接戦をした時に、どこまでバスケットを追求できるかはここからの課題です。

大きな大会を経験していないのは良い材料ではありませんが、それだけ1回しかない全国大会に懸ける気持ちは大きくなります。その気持ちに自分たちの身体がどれだけ反応できるか、どれだけ行動できるかがすごく大事になると思います。最近は大学生との練習試合をしています。関西の大学はどのチームのヘッドコーチも、練習試合をお願いすると二つ返事で引き受けてくれます。これはウチにとって非常にありがたいことです。

──高校バスケのファンも、大会が軒並みなくなってウインターカップには注目しています。

見ていて楽しいバスケットの定義は難しいのですが、みんな機動力があってオフェンスでもディフェンスもどんどんチャレンジするスタイルで戦っていくつもりですので、そういう部分に注目して、選手たちを応援していただけるとありがたいです。