文=鈴木健一郎

日本代表というグループ全体の底上げを図る大会

第38回男子ウィリアム・ジョーンズカップ(招聘大会)に挑む男子日本代表が一昨日に始動。昨日は練習が公開された。リオ五輪の世界最終予選(OQT)に参加したメンバーは誰も選ばれておらず、最年長でも27歳の篠山竜青と若手主体のチーム構成。OQTからは一転、結果よりも内容が重視され、個々の選手に経験値を積ませることで日本代表というグループ全体の底上げを図る大会となる。

キャプテンに指名された篠山竜青を始め、富樫勇樹や岸本隆一といった14名の若き日本代表選手は、準備期間が短い中でベストのチームを作り上げるべく、精力的にトレーニングをこなしている。9日間で8試合を戦う過密日程の中、若き日本代表がどんなパフォーマンスを見せられるかに注目が集まる。

長谷川健志ヘッドコーチは、経験の浅い選手をあえて集めて挑む今大会の意義をこう語る。「日本のレベルが上がるには、全体的なレベルの底上げが必要です。海外のチームと試合をする機会が非常に少ない。国際試合をして自分のストロングポイントやウィークポイントを分かってほしい。これが一番のテーマです」

OQTは2連敗に終わり、リオ五輪への道は途絶えてしまったが、世界と真剣勝負をする機会を得たこと自体が、日本にとっては久々の出来事だった。そこで得たことを今後に生かすことが、今の代表チームには求められる。長谷川ヘッドコーチは言う。「自分たちのやろうとしているバスケットを組織としてちゃんとやっている時は、オフェンスもディフェンスも良く戦えていました。ただ、一つでもミスがあると相手は個人の力でこじ開けてくる。注意深く精度の高いプレーをいかに続けられるかです」

日本代表として集まった選手たちは、長谷川ヘッドコーチの下で多くを学び、貴重な国際経験を積むことになる。

OQTのビデオを見ながら組織的な動きをレクチャー

キャプテンの篠山は、OQTに向けた合宿のメンバーには選ばれていたが、最終の12名からは漏れてOQTには参戦できなかった。テレビで眺めるしかなかった世界との戦いだが、そこから教訓はしっかりと得ている。「しっかりと見て学んで改善して、次に世界とやる時には向上した日本を見せないと意味がありません。そういう意味では、今回のOQTを外からでも、しっかり見られたのは、すごくモチベーションが上がる要因になります」

篠山は続ける。「これまで日本は俊敏性とかスピードとかシュート力を武器として世界と戦わなくてはならないというイメージでしたが、今回は俊敏性やシュート力もヨーロッパのチームにかなわない部分が出たので、そこには危機感があります。OQTに出たメンバーはもちろん、その下のメンバーが僕らを中心に、もっと世界を意識した戦いをやっていかないといけないと感じました」

「僕たち一人ひとりがしっかり経験して成長していくことが、日本の底上げにつながると思います。今回のチームはかなり若返り、OQTに絡む16人の中で自分だけ選んでもらっているので、そこはありがたいと感じています。ポイントガードとしては長い時間プレーして、ヘッドコーチの考えを学べればと思うので、選ばれた分は本当に頑張らなきゃいけないと感じています」

キャプテンに選ばれた篠山「しっかりと見て学んで改善して」

昨日の練習では、OQTチェコ戦のビデオを見ながら長谷川ヘッドコーチが組織的な動きをレクチャーする「座学」が30分ほど行われた。海外チーム同士の試合映像ではピンと来ないことも、田臥勇太が、竹内兄弟が実際にプレーする映像であれば肌感覚で理解できるに違いない。若い日本代表選手たちは食い入るように映像を眺め、指揮官の説明に聞き入っていた。

若いチームはモチベーション高く練習に取り組んでいる。一つひとつのメニューの間も盛んに声を掛け合い、コミュニケーションを取る積極的な姿勢が見て取れた。

Bリーグ開幕を控えた夏、どの選手たちも強い気持ちでバスケに向き合っている。長谷川ヘッドコーチはこう語った。「昨日のミーティングでは、プロのトップアスリートのあるべき姿について話しました。サッカーでも野球でも、プロ選手はたくさんいるが、成功しているのは一握りだよねと。そこで成功する人はどんな人なのか。今回ここに来ている選手が成功しないようでは、Bリーグも成功しないと思います。成功すべき人間が成功して、初めて組織は成り立つものなので」

9日間で8試合の過密日程をこなす若きAKATSUKI FIVE。彼らが台湾での招聘大会で何を得て、それを来たるべきBリーグでいかに生かしていくのか。OQTは残念な結果に終わったが、次の戦いはすぐ目前に迫っている。

OQTでは世界の壁に跳ね返される結果となったが、「世界との真剣勝負」で得たものは次の世代の代表選手たちに伝えていかなければならない。