経験でもコンディションでもナゲッツに劣っていた
形勢不利になると不協和音が出てくるもの。敗退すれば批判が殺到する。クリッパーズには優勝する力があったのかもしれないが、実際にはカンファレンスセミファイナルで敗退し、今は様々な議論に取り巻かれている。
このシリーズが始まる前、下馬評では圧倒的にクリッパーズが有利だった。異なるチームで優勝経験を持つカワイ・レナード、プレーオフに強いポール・ジョージ、誰もがマークされるのを嫌がるパトリック・ベバリー、そしてリーグで最も優秀なシックスマンであるルー・ウィリアムズとモントレズ・ハレル。どの選手もプレーオフに必要とされる経験では、若いナゲッツをはるかに上回っていた。またファーストラウンドでGAME7まで死闘を演じたナゲッツよりも、コンディションは良いはずだった。
その歯車はどこで狂ったのか。振り返って分かるのは、経験でもコンディションでもクリッパーズは劣っていたことだ。
ヘッドコーチのドック・リバースは『バブル』でのシーズン再開からコンディション面をずっと不安視していた。それをGAME7を終えた会見で明かしている。カワイはチームより遅れて『バブル』に合流し、ハレル、ベバリー、ウィリアムズはそれぞれの事情で一度チームを離れた。ルーもベバリーもケガを抱えてプレータイムが制限され、リバースはローテーションのやり繰りに苦心した。
また、『バブル』での隔離された生活でポール・ジョージが心に闇を抱えてしまった。途中で回復したが、これも指揮官の采配を迷わせる要因となった。3勝1敗とリードしていた時も「勝っているという気持ちの余裕はなかった」とリバースは言う。
ただ、どのチームもこの過密日程の中で全員が100%のコンディションということはあり得ない。リバースにできたことはたくさんあったはずだ。特にニコラ・ヨキッチへのダブルチームが機能していないのを見過ごした点。もっと早くカワイにマッチアップさせるべきだった。また調子を落としているジョージやルーにプレーを任せすぎた。チャンスを与える中で復調のきっかけをつかんでほしいと考えてのことだろうが、リバースのこのやり方は「目の前の試合だけに集中する」ナゲッツに付け入る隙を与えた。
そして経験の面。選手それぞれの経験は豊富だが、一緒にプレーする経験が足りなかった。ルー・ウィリアムズは「僕らは才能のあるチームだけど、ケミストリーが足りなかった」とコメントしている。カワイは同じくケミストリーに触れ、さらに「チームとしてバスケットIQが足りなかった」と辛辣な自己批判をしている。実際、彼がチャンピオンになったスパーズ、ラプターズがどんなバスケをしていたかを考えれば、彼が今のクリッパーズに物足りなさを感じるのは容易に想像できる。
ヨキッチは25歳、マレ―は23歳と若いが、この2人はもう4シーズン一緒にプレーしている。昨シーズンのプレーオフから主力の入れ替わりはほぼなく、ウィル・バートンがケガで離脱していて、マイケル・ポーターJr.が加わったぐらい。若いチームではあるが、クリッパーズよりずっと長く一緒にプレーしており、良い時も悪い時も共有してきた。
『sports illustrated』によれば、GAME7の残り1分、勝利を確信してロッカールームで選手を出迎えようと席を立ったティム・コネリー球団社長を、クリッパーズのローレンス・フランク球団社長が呼び止め、ナゲッツの素晴らしさを称えたという。クリッパーズも良いチームかもしれないが、様々な問題を抱えていることはもう理解しているだろう。
カワイとジョージの契約はあと2シーズン残っているが、いずれも2021-22シーズンはプレーヤーオプションで、来夏にはフリーエージェントになる可能性がある。ハレルとマーカス・モリスは今夏で、ルーは来年夏に契約が満了する。カワイとジョージさえいれば強いチームにはなるだろうが、それだけでプレーオフを勝ち抜くことができないことは証明されたばかり。ナゲッツ、マーベリックス、ジャズといった若いチームは『バブル』で貴重な経験を積み、来シーズンさらに強くなる可能性がある。スプラッシュブラザーズが復活するウォリアーズはその上を行くだろう。
そんな来シーズンの西カンファレンスを勝ち抜くために、クリッパーズはどんな準備をすべきか。ジョージは「僕たちが期待に応えられなかったのは事実だ。でも僕は今シーズンのチームが『優勝か、さもなくば解体か』あるべきではないと思っている。一緒に過ごす時間が足りなかった」と語っている。
ショッキングな敗退の後では、チームを解体してすべてゼロからやり直すことを考えてしまうもの。だが、今のコアメンバーを変えずにケミストリーを作り上げ、そこにイビツァ・ズバッツやランドリー・シャメットの成長が重なることが、結局はこのチームにとって最善の選択肢なのかもしれない。ドック・リバースは解任との見方が多いが、それもリスクの高い選択だ。彼より優秀でチームのビジョンに共感できる後任を見付けてくるのは簡単ではない。
ルー・ウィリアムズは言った。「オフは短いものになる。早めに戻って練習をスタートさせることになると思う。ケミストリーを作らなくちゃいけないからね」