川崎ブレイブサンダース

川崎市長も応援「フロンターレと同様に川崎を代表するクラブ」

9月14日、川崎ブレイブサンダースが、2020-21シーズンのプレスカンファレンスを実施し、元沢伸夫代表取締役社長が昨シーズンの収支の説明、今シーズンの事業戦略の説明を行った。そして、コロナ禍で厳しい状況の中でも将来に向けて、5年先の1万人アリーナを満員にするための基盤作りへの強い意気込みを明らかにした。

まず、昨シーズンの収支について。売上は9億9000万円(一昨シーズンは6億6400万円)に、3億3000万円(同3億6400万円)の赤字となった。これは新型コロナウィルスの感染拡大によるリーグ戦打ち切りの影響が大きく、通常のリーグ開催となっていれば売り上げは1億円から2億円の間で増加。その分の赤字額も減少している目論みだった。

このようにコロナの影響があったにせよ、ビジネス面で大きな成長を遂げた1年となったが、それを牽引したのが前年の3701人から4732人と大幅増を果たし、ホームゲームを毎試合ほぼ満員にした観客動員だ。この結果、シーズン後半の約3分の1を実施できなかったにもかかわらず、チケット売上は前年比40%アップを達成している。

DeNAに経営母体が変わった後、ビジネス面で順調に成長している川崎だが、それでもコロナ感染対策による入場制限など様々なマイナスの影響は大きい。当初目標としていたDeNA参入後3年目となる今シーズンでの黒字化は厳しいと明かすが、それでも遅くとも5年目に黒字化する算段はついたと語る。ただ、コロナ禍で経済が苦しい中、スポンサーの昨シーズンからの継続率は90%以上。地場企業を中心に数は増加しており、昨シーズンと同様の売上を予測している。

そして、川崎が新たに今シーズンの事業戦略ワードとして掲げるのが『NEXTマーケティグ』で、チームとして新たなフェイズに突入することを意味する。具体的には、脱ベイスターズ路線をより高めていくこと。DeNAは、すでに横浜DeNAベイスターズの経営で成功を収めており、川崎でも参入1年目はベイスターズの施策をかなり投入していた。しかし、それではうまく行かない部分も出てきたことで、昨シーズンはバスケットボールならではの施策も実施。今シーズンは、基礎としてベイスターズで培ったものはあるが、より川崎らしく、バスケットボールならではの施策を重視していく。

また、NEXTには、コロナ禍で変わった環境にも対応していく姿勢も含まれる。中でも川崎が今シーズンから大々的に取り組むのがソーシャルの分野で、その象徴となるのが『SDGs』に本気で取り組むこと。持続可能な開発目標を指すSDGsは2015年9月の国連サミットで採択された2030年までに世界が目指すべき行動規範で、自治体や企業を評価する指標として年々重要度が増している。日本のスポーツ界においてはまだ馴染みが薄く、本格的に取り組んでいるチームも皆無であるが、川崎は『&ONE』(アンドワン)プロジェクトとしてチームの主要活動に据える。

このプロジェクトの一環として、川崎市内の保育園、幼稚園にスポンサー企業であるアイリスオーヤマの協力のもと、幼児用ゴールを寄贈。自治体の協力をあおぎ、川崎市内の人々が集まりやすい、アクセスしやすい場所などに誰でも使用できるバスケットコートとゴールの設置などを行なっていく。

さらに、SDGs未来都市に指定されている川崎市とSDGs推進に関する協定書を締結し、地元自治体との連携を深めていくことを発表。これを受けて今回のプレスカンファレンスでは、川崎市の福田紀彦市長も登場。チームへの期待を次のように語っている。

「ブレイブサンダースさんは伝統あるチームですが、Bリーグが始まる前ですと市民の皆さんの受け止め方は東芝のバスケットボールチームという位置づけが強かったと思います。それがDeNAさんが母体となり、圧倒的に認知度が変わりました。例えば市政便りに取り上げてほしいと手紙が来たり、バスケットボールが欲しいという子供たちの声が増えました。バスケットボールが街を元気にしてくれると感じる市民の方たちの割合が圧倒的に変わったと思います」

「フロンターレさんは20年かけて地域とのコミュニケーションを図ってきた実績があります。ブレイブサンダースさんは、この3年においてワープをしているかと思うくらいのスピードで地域に浸透しています。フロンターレと同様に川崎を代表する2大スポーツチームとしてさらに期待していきたいです」

コロナ禍で先行きが極めて不透明な現在、各チームは目先の収入をいかに得るかに苦心している。だが、その中でも川崎はウィズ・コロナだけでなく、アフター・コロナであり、その先を見据えての取り組みも重視する。それは一見するとリスクに捉えられるかもしれないが、スポーツチームにとって何よりも大切なことは、どれだけ地域に根付き、地元の人々に愛着を持ってもらえるか。これこそが結果として、安定した経営基盤の根幹を成すものであり、ただ強いだけでは決して得られないものである。そう考えると、このプロジェクトはスポーツビジネスの一丁目一番地を行なっているとも言える。

元沢社長は、「依頼されての社会貢献活動だけでなく、主体的に社会課題と向き合い、解決に向けた取り組みを行っていく。それで初めて、川崎の市民、地場企業、行政に本当の意味で誇らしいと思ってもらえるようになります」とこのプロジェクトへの意気込みを語る。

目に見える効果がすぐに出ないSDGsを通して行っていく社会貢献、地域密着活動であるが、これこそ遠くない未来に誕生する1万人アリーナの満員へと確実に繋っていく活動である。これが実現した時、市長が期待を寄せるようにブレイブサンダースはフロンターレと並ぶ川崎を代表するプロスポーツチームであり、最先端の地域密着チームになっているはずだ。