文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一、野口岳彦

「自分が入るからにはチームに刺激を与えたい」

昨年2月、国際強化試合のイラン戦で馬場雄大はダンク3本を決める鮮烈なデビューを飾った。当時は筑波大でインカレ3連覇を成し遂げた後、オールジャパンを最後に大学を離脱し、当時の日本代表を率いていたルカ・パヴィチェヴィッチと佐藤晃一スポーツパフォーマンスコーチとの二人三脚での集中的なワークアウトを実施。パヴィチェヴィッチは馬場の素質に惚れ込み、そのまま日本代表でデビューさせ、さらにはアルバルク東京のヘッドコーチ就任とともに馬場を呼び寄せた。それから1年、馬場はBリーグで優勝し、新人王となって代表に戻ってきた。

イラン戦での代表デビューは「5年ぐらいたった気がしますね」と馬場は笑う。「あの時は気持ちの面でフワフワしていたのですが、今は状況を冷静に見ることができています。そこは濃密すぎる経験をしたことで自分が成長できたところだと思うので、それを今回もコートでしっかりと出したいです」

今年2月のWindow2はケガで欠場。前回の代表はBリーグデビューから間もない昨年11月となるが、Bリーグで経験を積み、成長したことに自信を持っている。「2月はラマスコーチも『チームの一員だから』と呼んでくれて、富樫選手と僕は試合だけチームに帯同しました。チームが勝てず悔しかったのはもちろんですが、外から客観的に見れば分かることもあるじゃないですか。『自分ならああしたのに』って。外から見てて思うのは楽なので、実際にやるとなると別かもしれませんが、その『自分ならああしたのに』をコートで表現したい。自分が入るからにはチームに刺激を与えたいとは思っています」

この1年、ルカコーチから求められたのは、いかに常に高いスタンダードでプレーするか。「ディフェンスもオフェンスも、2ウェイでハードに頑張る選手は少ないとルカには言われています。その強度を保てるよう1年間やってきました。それは代表でもやれると思っています」

「A東京のオフェンスはピック&ロールがメインになるので、ピックの使い方はこの1年でかなりできるようになりました。あとはいろいろな面での経験です。外国籍選手がいる中でいろんな状況でプレーさせてもらい、1年間場数を踏ませてもらったので。そこは日本代表としてコートに立った時も、今までとは違った姿を見せられると思っています」

ちなみに今回、「代表に何をもたらすか」を書いてもらったのだが、馬場は「ダンクって書いたほうがいいですかね?」と気を遣いながらも、この『2ウェイでハードに頑張る』を意識してのことだろう、「ダンクも見てもらいたいですけど、自分がチームにダンクで貢献したいと考えているわけじゃないので、ハードにディフェンスするところも注目してほしいです」とファンに呼び掛けた。

「一番の成長期に2020年を迎える自分たちが引っ張る」

そして今回は旧知の仲である八村塁が代表に加わった。馬場はかねてから渡邊雄太も含む『自分たちの年代』が日本バスケの牽引役にならなければいけないと主張している。「東京オリンピックを見るなら、そこの年代が一番頑張らないといけないのは間違いないですよね。僕たちは一番の成長期に2020年を迎えるので。当然、自分たちが引っ張る気持ちでいます。でも、他の国でもこの年代の選手がどんどん台頭しているので、ただ頑張るだけじゃなくて、そこに勝たないと結局は日本のレベルが上がらないというか。常に世界に目を向けてやっていくことで、日本のバスケのスタンダードを自分たちの年代が上げていきたいと常々考えています」

その八村と代表合宿で一緒にプレーして、馬場はその成長ぶりに素直に感嘆する。「全然違います。スキル云々じゃないレベルで、アメリカでやってきたとなると格差がヤバいです」と馬場。具体的にどういうことかをこう説明してくれた。「一つのプレーを見てもボールを失わないです。でも、そんなんで失ってたら向こうでは通用しないんだろうな、ということですよね。一つひとつのプレーがダイナミックで、絶対に点を取ってきます。そういった部分では、世界で通用するにはこんなプレーをすればいいんだ、という道しるべにはなります」

見るだけでなく実践しなければ意味はない。八村の成長を見て、馬場は自分のプレースタイルに取り込もうと意識している。「一番思うのは『あそこで強く行っていいんだ』という部分。これまで僕だったら『行っていいのかな』と躊躇してしまうようなシチュエーションで、塁はガーッと行く。得点できなくてもファウルを取ってくるし、あるいはアンドワンを取ってきたりもします。強気で攻めることで生まれるプレーなので、そこは僕ももっと自信を持ってアタックしたいと思います」

「自分の道を焦らずに。でも、確実に行きます」

アメリカの大学に進み、この世代では最高レベルの大会であるNCAAトーナメントで揉まれる八村。その成長ぶりに驚きつつも、馬場は自分の選んだ道を間違ったとは思っていないし、以前と変わらず『海外志向』を持って歩みを進めている。

「海外志向は変わりません。年齢的に、行くのが早いに越したことはないんですけど、焦ることなくやっています。まだまだやることが目の前に見えていますし、中途半端な状態で海外に行って、ちょっと英語がしゃべれるようになっただけで帰って来るのでは意味がないので。自分自身にも日本バスケットボール界にも、行くからには確実に何かをもたらしたい。タイミングを大切にして、そこには運もあると思うので、やるべきことをじっくりやりながらその時期をうかがいたいです」

その馬場が大切にしているのは「Bリーグを経験して海外にチャレンジすること」だ。「日本バスケを盛り上げる意味でも、それは大切にしたいです。僕自身、A東京に行ったことでプラスになったと感じていますが、それ以上に周りから『うまくなったな』、『1年で全然違う』と言われます。ラマスヘッドコーチからも『プロに入って良かったね』と声をかけてもらいました。でも、自分ではまだまだだと思っているし、来たる日に向けてもっともっと練習して準備をしなくちゃいけないです」

Bリーグでの活躍を見ていると忘れてしまいそうになるが、馬場の『海外志向』は全くブレていない。「自分の道を焦らずに進んでいきますが、でも、確実に行きます。それがいつかは分かりませんが、自分のタイミングで行きます」

「行ければいい」とか「行きたいと思っています」ではなく「行きます」と馬場は断言した。「アメリカに行く、NBAに挑戦すると以前から発信し続けている中で、何が良いのか判断しながらタイミングを待ちます。出会いを大切にしながら、自分自身はそこに頼るのではなく努力をしていきたい。自分がやりたいのは何かというところで精進していきたいです」