文=丸山素行 写真=野口岳彦

千葉ジェッツにとってBリーグ2017-18シーズンは2シーズン連続での『飛躍の年』となった。西村文男は千葉の最大の武器である高速トランジションオフェンスを操り、チームにアクセントを与えた。富樫勇樹がケガで戦列を離れてもチーム力が落ちなかったのは、西村の活躍によるものが大きい。そんな西村に今シーズンを振り返ってもらった。

チーム力が増し「個々でやる時間帯が特に少なくなった」

──天皇杯連覇を達成し、激戦の東地区で優勝を果たすなど千葉にとっては飛躍のシーズンとなりました。西村選手にとってはどのようなシーズンでしたか?

みんなが言っているように、『充実』が一番合う言葉だと思います。昨シーズンと比べても、チームとしてより強くなった実感が1年間を通してありました。苦しい時間帯でも離れなくなりましたし、全員がシーズンを通して危機感を持つようになりました。昨シーズンのチャンピオンシップの栃木ブレックス戦での教訓を生かすことができたと思います。

──その教訓とは最大22点差を覆された、クォーターファイナル第2戦のことですね。あれはやはり相当堪えた敗戦でしたか?

そうですね。「同じミスは繰り返さない」と全員で言い聞かせながらやってきました。選手が代われば、毎年絶対に違うチームの形になりますが、個々でやる時間帯が特に少なくなった年で、最初は取りこぼしているにしろ、それでも最後は地区優勝に持っていくことができました。

──富樫勇樹選手がケガをしましたが、強みであるトランジションオフェンスは機能し続けました。個人的な評価はいかがですか?

富樫がケガをして自分のプレータイムが増えた時に、チームとしてどう強くなっていくかが自分の中で課題でした。天皇杯で結果を出せたこともありますし、そこからの1、2カ月の試合でチームとして強くなった実感はありました。そこに自分は貢献できているという自覚もありましたね。ただ、それがあったからこそ、その後のケガは痛かったです。残念でしたが、そこに持っていくまでの過程はすごく自分の中では充実していました。

そもそも自分以上に攻撃的で得点力のある富樫が入ってきたことで、同じチームに同じタイプのガードはいらないと自分の中で思うようになりました。日立(サンロッカーズ)の時からですけど、僕も割と富樫寄りのプレースタイルで、ガツガツ点を取りに行くスタイルです。ジェッツに入った年は今より主力となるプレーヤーがいなくて、「誰に預けたら得点の可能性が高いか」を考えた時に、自分で行くべきだ、という選択をしてました。

速攻の意識を促す「I see you」のプレッシャー

──富樫選手との差別化を意識したことでプレースタイルが変化したということですね。

個人技には限界がありますし、流れは個人で作るものではないので。それがチームスポーツの難しさです。でも逆を言えば、今のチームは自分がガツガツいかなくても、自分のコール一つでここまで行けるという想定ができるので、自分が出た時は周りを生かす形になりました。

それで結果が出たので、自分の考えは間違っていないんだなと。最悪、速攻でフィニッシュまで行けなくても、最終手段で自分が行けばいいという余裕もあるので、頭の中ではスマートにバスケができていたと思います。

──西村選手がコートに立つと、周りの選手の速攻への意識がより高くなるように映りました。

勇樹は自分でリングまで持っていけるので、そういう意味では走りに手抜きが生まれる可能性もあります。僕の場合はパスが投げられると思っているから「走らなきゃ」というイメージを植え付けることができるんです。「俺は投げるぞ、お前は走れ、手を抜いたらダメだぞ」みたいな意図もあります。自分で持って行くことができても、あえて出しちゃうこともあります(笑)。

──スパルタですね(笑)。そのコミュニケーションは普段の練習によるものですか?

外国籍選手には常に「I see you」と言います。たとえそこにパスが行かず違う選手がシュートを打ったとしても、わざわざ外国人選手のところに行って「I see you」と絶対に言うんです。大野(篤史)さんのバスケはそこだし、走るのが好きな選手が多かったので。そういう意味でずっと言い続けました。

「向こうのほうがメンタルも強度もタフでした」

──充実したシーズンでしたがリーグ優勝は逃しました。何が足りなかったのでしょう?

メンタルのタフさですね。ウチが先に崩れました。得点には見えないところでウチが流れをつかみかけたことも何度かあったんです。でもそこで向こうは40分間崩れなかった。準備期間は一緒ですし、同じくらいのスカウティングをやってきたと思うので、そういう意味ではタフさの部分だと思います。向こうのほうがメンタルも強度もタフでした。

──途中交代で流れを変えることができませんでした。違いを生み出すのは難しかった?

オフェンスは自分のイメージが広がりませんでした。そのくらい相手のディフェンスが完璧に近かったです。勇樹のピックからのシュートも全部止めましたし、ヘルプの寄りも速かった。単純に力負けしたと自分は思っています。

──今後の千葉に必要になってくるものはそうしたタフさでしょうか?

昨シーズンは勢いだけのチームでしたが、今シーズンはそう言わせないためのチームが作れたと思います。でもそういう意味ではタフなゲームで勝ち切る経験値が少なく、そのタフさですね。リーグ戦はリーグ戦の戦い方、チャンピオンシップはチャンピオンシップの戦い方があります。チャンピオンシップはレベルの高い戦いで、お互いに隙は出しません。リーグ戦よりもう一つ上の次元の戦いになるので。

コートに出ていた選手は「これじゃダメなんだな」と感じたはずです。そういう意味で、またウチは強くなると思いますよ。あとはまた来シーズンを通してどう僕らがどう過ごしていくかが大事です。今年の決勝も良い教訓になったと思います。