文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

三河が多彩なオフェンスで終盤に突き放す

Bリーグの優勝を争うチャンピオンシップが開幕。ウイングアリーナ刈谷ではシーホース三河と栃木ブレックスが激突した。昨シーズンのセミファイナルの顔合わせの再現とあって、両チームともエナジー満点のぶつかり合いとなったが、三河が終盤に突き放し77-63と快勝した。

互いに守備を強調したディフェンスゲームとなったのは予想通り。それでも試合を通じて、三河の多彩なオフェンスが目立った。立ち上がりは桜木ジェイアールのポストプレー、リバウンドから走っての速攻、桜木を経由せずアイザック・バッツがインサイドを破ってのゴール下、そしてアーリーオフェンスからの比江島慎のジャンプショットと、あっという間に10-0とリードを奪う。

その後は栃木が立ち直り、ベンチから投入された竹内公輔に桜木がペイントエリアから締め出されると、ポストプレーにこだわりすぎて得点が止まる。「10-0になった時点で受けに回ってしまった」と橋本竜馬が反省する展開だが、「でもそれをまた逆転し返すという、見ている方にとって面白い試合ができました。自分たちとしてもこの1試合でまた成長できました」と、混戦を勝ち切った自分たちの戦いぶりを誇った。

栃木は得意の『粘り』を存分に発揮するも決め手を欠く

我慢の時間帯を耐えて逆転するのは栃木の得意とするところ。特に昨シーズンのチャンピオンシップでは毎試合のように接戦を制してきた。そんなディフェンスゲームの中で三河が押し切ることのできた要因は、シーズンを通して準備してきた多彩なオフェンスで栃木の堅守を上回ったからだ。

21-26と突き放されかかった第2クォーター残り2分、タイムアウト明けには全員で金丸晃輔のオープンを作り出し、この3ポイントシュートを金丸がきっちり沈める。続くオフェンスでは左サイドからドライブするスペースをコートニー・シムズが身体を張って作り、これを金丸がすかさず突いてレイアップで沈める。最初は当たっていなかった金丸はこの2本で勢いに乗り、ゲームハイの26得点を記録することになった。

栃木はなおも粘り続けたが、第3クォーターに入ると三河はまた攻め手を変える。今度は桜木がポストプレーでボールを動かすのではなく、自らアタック。瞬時のキレで栃木ディフェンスの激しい当たりを逆手に取り、前半は被ファウル0だったのが第3クォーターだけで4つ。苦しめられた竹内からバスケット・カウントももぎ取り、7本中5本のフリースローを沈めた。

また、橋本が決めた2本の3ポイントシュートも栃木に大きなダメージを与えた。一つは第3クォーター途中、この試合最大の7点ビハインドから41-41に追い付く3ポイントシュート。もう一つは第4クォーター半ばに栃木を一気に突き放すランの途中で生まれたもの。この試合、シュートタッチの良くなかった比江島がチャンスメークに回り、多くの得点を奪うタイプではない橋本が迷わず打ち切って決めた2本だ。

『ここで一本欲しいところ』で得点したのは三河

どのチームも大なり小なり粘ることはできる。だが、そこから抜け出すには大きな力が必要だ。栃木は粘りを発揮したが、突き放す力を欠いた。リバウンドからの速攻が持ち味で、ファストブレイクポイントで三河の8に対し19と上回ったが、それ以外の武器がなかった。

ロースコアの展開で接戦が続いたが、『ここで一本欲しいところ』で得点を奪っていたのは常に三河だった。前半終了時点で28-30とビハインドを背負っていたが、橋本は「2点ビハインドは許容範囲で、負けていても10点以内に収まっていれば必ずチャンスはある」とハーフタイムにも動じていなかったと語り、話題は自身が決めた決定的な3ポイントシュートに移る。「第3クォーターで7点離されたんですけど、あそこでみんな粘って同点、逆転まで行けたのはすごく大きくて。結果的にシュートが入りましたけど、比江島がチャンスメークして僕はつないだ感じです。あそこでウチのリズムが加速しました」

第4クォーター、橋本の3ポイントシュートを含む11-0のランで64-55と三河が抜け出す。栃木はジェフ・ギブスの得点でランは止めたものの、三河の勢いはもう止められなかった。桜木と比江島がフリースローを確実に決め、残り2分を切ったところで桜木のポストプレーからシュートフェイクを入れてフリーのバッツへ。バッツが豪快にダンクで叩き込んで72-57としたところで勝負は決した。

「誰か一人でも引いたら負け決定というゲームです」

栃木にとっては痛い一敗だが、負けたこと以上に『守備が強調された粘りの展開』で競り負けたショックは大きいはず。安齋竜三ヘッドコーチは「良い時間帯と悪い時間帯がかなりはっきりしたゲーム。悪い時間帯をどう減らせるか、そこをやらないと三河の強力なオフェンスに対抗できない」と語る。

指揮官が気にしていたのは気持ちの部分で、「気持ちが下がってしまった選手がいた」との指摘があった。「戦術云々より気持ち。一人ひとりバラバラなことをやりだしたのがダメな時間帯。チームルールにのっとり、あとは気持ちの部分で引くなということ。誰か一人でも引いたら負け決定というゲームです。明日はどんな状況になっても引かない」と巻き返しを誓った。

また桜木を抑え込み、0-10でスタートした試合を接戦に持ち込む働きを見せた竹内公輔は「大事な時間で必要なエナジーを出せなかった」と悔しい敗戦を振り返りながらも、「この雰囲気にはもう慣れたので、明日はこちらがイニシアチブを取ってやり返したい」と語る。

一方、勝った三河で一人だけモヤモヤを抱えていたのが比江島だ。「我慢比べてミスが少なく、ディフェンスも全員で身体を張り、栃木のお株を奪う勝ち方ができた」と勝利を振り返ったが、「自分は迷惑をかけてしまいました。自分なりに準備はしていたんですけど、それを上回るプレッシャーが来て、身体を当てられてミスが出たり」と個人的に満足には程遠く、明日の第2戦がリベンジの場となる。「第3戦にはしたくないです。栃木は今日以上に激しく来ると思うんですが、イニシアチブを取って第2戦で決めたい」と意気込んだ。