文=丸山素行 写真=バスケット・カウント編集部、FIBA.com

「アジアの中でスピードは通用しました」

アジア選手権に挑んだU-16男子日本代表は6位で大会を終えた。日本の平均身長は184cmで全13チーム中10番目と、アジアの中でも身長のハンデは否めなかった。そんな日本の中でも一際目を引く小さな選手がいた。それが169cmのガード河村勇輝だ。河村はコートを縦横無尽に駆け回り、次々と速攻を繰り出し自らフィニッシュまで持っていった。

河村は爆発的なトランジションバスケを日本にもたらし世界を驚かせた。そのスピードは世界も認めるところで、グループリーグ最終戦で韓国を相手に見せたパフォーマンスはFIBAの公式サイトでも取り上げられ、「河村のクイックネスが韓国を驚かせた」と発信された。

「SNSって良いこともありますけど、悪いことのほうが多いと考えているのでやらないようにしてます」と自身の評価を見ていないという河村は、「FIBAの公式アカウントで称賛を浴びてるというのはみんなから聞きました。全然そんなことないんで、恥ずかしいです」と照れる。

「身長がない分、速さとかで上回っていかないとやっていけないので、ファストブレイクが僕のスタイルだと思っています」と日本の目指すトランジションバスケを河村は体現した。「アジアの中ではスピードは通用しました。強かったのは強かったですけど、そんなにフィジカルでやられる感じもなかったので自信はつきました」と大会を通しての収穫を語った。

河村にとって初の国際舞台であったが、緊張した様子は見られず、生き生きとプレーしていた。「日本を背負ってるという違う緊張感はありましたが、緊張感はウインターカップで味わったので」と、東京体育館での経験が生きたという。

予想をはるかに上回った216cmの高さ

河村にとって今大会はアジアでも通用するという確かな手ごたえを得た大会となったが、その一方で世界の壁の高さを身をもって知った大会でもあった。U-17ワールドカップ出場権の懸かったフィリピン戦で日本代表は216cmのセンター、カイ・ソットの脅威的な高さの前に屈した。

「日本の留学生はデカくても205cmくらいなのですが、そのレベルでシュートを打ったとしても、216cmのソイ君は手もすごく長かったので、『このシュートでもブロックされるんだって』という感じをフィリピン戦で初めて味わいました」

「シュートを打っても(オフェンスリバウンドが奪えず)リバウンドが全部あっちにいくので、絶対に決めないといけないという気持ちがあったからこそ、シュートが伸び悩んだというのはみんなあったと思います。自分的にもフィリピン戦は自分らしいプレーができなかったのでダメでした」と後悔を口にした。

リバウンドが取れないのであれば、高確率でシュートを沈めるほかない。高さで劣る日本が世界が勝つためには、当然ながら高いシュート精度は必要不可欠だ。だが肝心のシュート精度でもアジアの強豪国に劣ったと河村は認める。

「優勝したオーストラリアもそうですし、韓国にしてもそうですし、外からのシュートが全体的に入るんです。外からのシュートは自分たちも取り柄だったんですけど、安定しないことが多かったです。そこに関しては相手のほうが上手だったかなと感じますね」

アジアのレベルを体験し「世界に行ってみたい」

田中力は海外への挑戦を決意した。チームメートのそうした決断に触発された部分も含め、河村ももっと大きな舞台で活躍したいと目を輝かせた。「今回の大会を経て、全然やれるなというのを感じましたし、世界にいってみたいという気持ちは芽生えました」

選手にとってより高みを目指すことは、大いなるモチベーションとなる。U-16の活動はこれで終了。河村の次なるステップはU-18代表に招集されることだ。そのためには福岡第一高校での活躍が必要となる。

「第一で日本一を取って、挑戦したい」。河村はそう言ってさらなる飛躍を誓った。アジアで確かな手応えをつかんだ、小さなスピードスターの挑戦をこれからも見守りたい。