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オバマ前大統領も「偽善行為を減らすべき」と糾弾

昨年9月下旬、ニューヨークの連邦地検は、選手契約などをめぐり不正な金銭のやり取りがあったとして、NCAA男子バスケットボール・トーナメントに参戦する強豪校のコーチやスポーツ用品大手アディダスの幹部ら計10人を贈収賄罪で訴追した。

米連邦捜査局(FBI)による2年間の調査の結果、アリゾナ大学のエマニュエル・リチャードソン、オーバーン大学のチャック・パーソン、オクラホマ州立大学のラモント・エヴァンス、南カリフォルニア大学のトニー・ブランドという4人のコーチ、アディダスからもシニアディレクターを務めるジェームス・ガットらの名前が挙がっている。

今回の件で問題視されているのは、特定の大学でプレーすることを条件に、将来有望な高校生やその家族に賄賂が贈られた疑惑があること。あるケースでは、ガットが自社とスポンサー契約を結ぶNCAAの強豪大学に進学させるため、10万ドル(約1100万円)を選手の家族に支払ったとも言われている。

これまでもNCAAとカネにまつわる問題はたびたび指摘されてきたが、今回の件を機に大きな批判が沸き起こっている。キャバリアーズのレブロン・ジェームズは、NCAAを「崩壊した組織」と糾弾。また将来的にNBAが大学に進学しない有望選手の受け皿として、NBA版『マイナーリーグ』の設立を検討すべきとも主張した。

レブロンは言う。「NCAA内で改善しようとする動きがあるのかどうか。多分ないだろうね。もう何年も何年も、ずっと続いていることだ。どうやって改善するのか分からない」

レブロンは高校を卒業と同時にプロ入りを決断。2003年のドラフト全体1位指名を受けてキャブズに加入し、NBA選手としてのキャリアを歩み始めた。プロ入りする前にディビジョン1の大学に進学する可能性もあったが、家族の経済事情を考慮し、大金を得られるプロの道に進んだ。そのレブロンからすれば、学生アスリートが得られる授業料免除というシステムも困惑の一つだ。

「自分は大学に進学しなかったが、5つ星のアスリートがバスケットボールとフットボールで大学に何をもたらすかは分かる。大学のコーチがどれだけの報酬を得ているかも知っている。大学が学生アスリートの力でどれだけの収入を得ているのかも。彼らが授業料を免除されているという話は聞くが、大学が彼らを入学させる理由は教育を受けさせるためではなく、ファイナル4に進出するためじゃないか。なんとも不可解な話さ」

レブロンには、13歳になるレブロンJr.と10歳になるブライスという息子がいる。2人ともバスケットボールをプレーし、全米の大学が今から獲得を狙うほどの逸材と言われている。レブロンは、NCAA入りだけが子供たちの選択肢にはならないとし、選択肢を家族で話し合うそうだ。

「俺はNCAAのファンではないんだ。マーチ・マッドネス(NCAAバスケットボールトーナメント)を見るのは好きだし、素晴らしい試合だと思う。でも、学生アスリートがその恩恵を得られていないことについては、好きではない。ウチには2人の息子がいて、その方向に進むかもしれない。だから、家族で結論を出さないといけない。でもNBAにかかわる人間として、ファームリーグを支える方法を見い出す必要性を感じる。もしNCAAプログラムの一環になりたくないと考える子供たちがいるのなら、常に海外リーグに行かなくても済む方法を考えないと」

レブロンは、米大学バスケットボール・チームを舞台にスポーツ界にはびこる金品授受の問題を批判した青春映画『Blue Chips』(邦題:ハードチェック)という映画についても触れた。「学生が報酬を得るのは今に始まったことではない。みんなは『Blue Chips』という映画を見たかな? あの映画の話は事実だ。こういうことを言うと見出しに使われてしまうけれど、NCAAは崩壊している」

NCAAの体制を批判する著名人はレブロンだけではない。バラク・オバマ前大統領もその一人だ。オバマは2月下旬に行われたマサチューセッツ工科大学での講演で、レブロンと同様にNBAジュニアリーグの設立こそ健全と主張。経済的に恵まれていない学生が報酬を得ずにプレーしているNCAAシステムは、NBAに選手を送り出す育成組織として機能していないと明言した。

「近い将来数千万ドルを稼げるのに、今の段階では経済的に苦しい生徒もいる。そんな彼らの周りには巨万の富を得ている大人がいる。これは良くない。NBAジュニアリーグ設立ですべての問題が解消されるわけではないが、学生アスリートという偽善行為を減らすことはできる」

NBAは2005年からドラフトにエントリーできる年齢制限を18歳から19歳にあらためた。それ以降、有望な選手たちは高校卒業後に1年だけ大学に所属してからNBAドラフトにアーリーエントリーする『one-and-done』という過程を踏むケースが通例になった。これにより、NBAでプレーできるような有望な選手の進路は大学にほぼ限定されてしまい、オバマの言う『NCAAの偽善』に結果的に手を貸すことになってしまっている。

NBA選手会は以前からこの年齢制限を18歳に戻すべきと主張しており、NBAコミッショナーのアダム・シルバーは昨年、「これから話し合い、結論を出す必要がある」と語っている。今回の収賄疑惑により、NCAAがプレーヤー・ファーストな組織でないことは明白となった。将来有望な選手の周りで私腹を肥やしている大人がはびこる時代が何年も続いており、透明性や健全性を取り戻すのが難しいことは明らか。NBAも動くべき時が来たと言える。

アメリカの高校卒業者にNBAジュニアリーグという選択肢を与え、有能なアスリートはアメリカで切磋琢磨しながら報酬を得て家族を養い、NBAまでの道を拓く。大学に進学するのはあくまで教育を受けたい者とする。NCAAの錬金術は崩壊するだろうが、これが本来あるべきプレーヤー・ファーストではないだろうか。いずれにせよ今回のスキャンダルにより、NBAはファームリーグの設立に向けて本腰を入れることになりそうだ。