文=鈴木栄一 写真=野口岳彦、鈴木栄一

バリバリの『理系男子』という異色のキャリア

リーグ屈指の強豪へと成長した千葉ジェッツは、ベンチメンバーの層も厚い。その象徴的な存在として注目を集めているのは、富樫勇樹欠場の穴を見事に埋め、天皇杯連覇の原動力となった司令塔の西村文男だ。そして、西村とともに先発メンバーと遜色ない活躍を見せているのがアキ・チェンバースである。

シーズン開幕前、サンロッカーズ渋谷から加入したチェンバースは、190cmのサイズと高い身体能力を備えたシューティングガード兼スモールフォワード。持ち味であるタフなディフェンスと速攻のフィニッシャーとして頼りになる機動力が光り、堅守からの速い展開とトランジションバスケットボールを強調する千葉のスタイルに見事にフィットしている。

アメリカ人の父、日本人の母を持ち日本国籍のチェンバースだが、幼少期からアメリカで育っており、バスケ選手としてのルーツはアメリカにある。ただし、一般的な選手とは違うキャリアを歩んできている。

カリフォルニア大マーセド校の出身だが、入学当時は大学にバスケットボール部はなかった。そこから友人と一緒にバスケ部設立を大学側にかけあい、コーチの獲得、NAIAのリーグ加入における書類作成などを友人と一緒に行ったことで、NAIA(NCAAとは別組織で、比べると規模の小さい大学で構成されている)カリフォルニア・パシフィック・カンファレンスへの加入が認められた。文字通り、大学バスケ部の設立メンバーである。

そこでのプレーがbjリーグ時代の三遠ネオフェニックス(当時は浜松・東三河フェニックス)の目にとまり、大学入団当初は考えもしなかったプロバスケ選手のキャリアをスタートさせた。また、余談ではあるが大学ではマテリアル・サイエンス・エンジニアリングで学位を取得している、日本バスケ界では珍しいバリバリの『理系男子』でもある。

オールラウンドな能力で千葉を支える存在に

千葉での役割は、小野龍猛に続く2番手のスモールフォワードだが、シーズン序盤はコンディションに苦しんでいた小野に代わり、第4クォーターの勝負どころで起用される機会も少なくなかった。また、チーム状況や試合展開によってシューティングガードでもチームに貢献できる。そんな彼の持ち味が存分に発揮されたのが、21日の横浜ビー・コルセアーズ戦だった。

千葉は前日の試合で、石井講祐がベンチから出場した直後に接触プレーによって負傷。大事には至らなかったが、この日もプレータイムを制限したい状況であった。しかし、そんな中で先発の原修太が開始2分で2つ目のファウルを喫してしまったことで、普段は小野との交代でまずはコートに入るのが定番のチェンバースが投入される。

いつもと違うポジション、時間帯での出場となったが、「どんなタイミングに入ってもマインドセットは変わらない。チームを助けるためにハードにプレーするだけ」というチェンバースは、第1クォーター終盤には川村卓也のシュートを見事にブロックするなど、いつも通りの堅守を披露した。

また、オフェンスでもシーズンハイとなる15得点をマーク。「これが自分たちのやるべきオフェンススタイル。しっかり走ってボールを回し、イージーなシュートを作り出して決める。それこそシンプルで一番、点を取りやすい」と語ったが、これもチェンバースが大差のついた状況でも気を緩めず、『マイボールになったらしっかり走る』という基本を実行していたからこその今シーズン最多得点だった。

次節の川崎戦では辻直人とのマッチアップに注目

日本人選手では唯一の新加入メンバーでありながら、それを全く感じさせないほどチームに溶け込んでいるアキ。自分の役割を「試合に出てさらにインテンシティを上げる。そして、チームにエナジーを与えること」と語り、持ち味であるディフェンスについては「相手のやりたいことを止める。もし、相手がアタックして来たら足下に入るなど、タフなディフェンスをして相手のシュートを止めにいく」と意識している。

今週末、千葉は敵地に乗り込み同地区ライバルの川崎ブレイブサンダースと対戦する。アルバルク東京との東地区首位争いを制するためにも、敵地とはいえしっかり連勝したい。そのためには調子を上げてきている辻直人をいかに抑えるかが重要であり、チェンバースが辻のマークにつく可能性も十分にあり得る。

「辻は素晴らしいシューターであり、まずは3ポイントを打たせないこと。彼の動きについていって、たとえ2ポイントやフローターは打たれても、3ポイントはダメ」と辻対策を語るチェンバースを、川崎戦におけるキーマンとして注目したい。