「今はここに来て楽しいと思えています」
「合宿に来る前はめちゃくちゃ緊張というか、すごく不安だったんです」
こう語るのは、今回初めてバスケットボール女子日本代表に招集された東藤なな子だ。
日本代表は、2月にベルギーで開催される東京オリンピック予選(OQT)へ向けての合宿中で、東藤は初招集でありながらスピードを生かしたドライブや3ポイントシュートで存在感を発揮していた。
東藤が代表入りの連絡を受けたのは12月末のJX-ENEOSサンフラワーズ戦を終えた後のこと。オリンピックイヤーの代表初招集は当然うれしいものだが、そこからここまで彼女の気持ちは浮き沈みの激しいものとなった。というのも、年明けの天皇杯ファイナルラウンドではファウルトラブルでリズムを崩し、得意のオフェンスでも不完全燃焼に終わったからだ。
「皇后杯では気持ちの部分も含めてダメダメで、ダメだこんなんじゃってなりました(笑)。でも逆にそこで吹っ切れて、自分のプレーをやればいいんだって。負けたことも自分のプレーも悔しかったけど、すごく経験になりましたし、今となればあの期間も大切だったと思います。代表の知らせを受けてからこの合宿までの間で、すごく気持ちの変化がありました。最初は緊張だったけど、頑張ろうという気持ちになって、今はここに来て楽しいと思えています」
指揮官のトム・ホーバスからは1対1の強さを評価されており、「そこは徹底して攻め気は忘れないようにしています」と本人も語る。実際、合宿では初招集と感じさせない積極的なプレーで、自慢のスピードをアピールしていた。「実感はないですけど、先輩方にも負けないぞという気持ちはあります。でも本川(紗奈生)さんは速くて、やっぱり流石です(笑)」
「盗んで吸収して、自分のプレーも出しながら」
その本川は同じシューティングガードで、ドライブで仕掛けるプレースタイルも同じ。だが東藤にとっての本川は札幌山の手高の先輩であり、昔からあこがれる存在だ。ナショナルトレーニングセンターで一緒に練習している現状を東藤は「夢ですよね」と表現する。
「テレビで見ていた人が一緒にバスケをやっているんだ、みたいな。だからこんな貴重な経験はないと思っていろいろと盗んで吸収して、さらに自分のプレーも出しながらという感じです。今は見ることが多すぎて目も足りなければ、覚えることも多いので脳みそも足りない状況ですけど(笑)。まだ2日目ですがパンパンに詰め込まれて、初日は新しいことだらけでついていくことに必死でした。でも今日は少し慣れてきた感じはありますし、自分でもこの短期間ですごく成長しそうだと感じています」
そう語る東藤だが、アンダーカテゴリーでの代表経験はある。昨年夏のU19ワールドカップでも主力として活躍し、チームのベスト8進出に貢献した。この時の仲間の活躍が東藤にとっては常に刺激となってきた。
「いつもは今野(紀花)や奥山(理々嘉)がこういう場にいたんですけど、理々嘉もJXの1年目でいろいろ大変だし、のんのん(今野)もアメリカで頑張っています。それを刺激に、自分もここにいられるのは誰もが経験できることではないから、ここに立てていることに感謝して、無駄にしないで全力でやりたいです」
「怖いものなしのゴールアタックを見せたい」
もっとも、A代表に招集されたら今度は残るための挑戦が始まる。OQTに、その先の東京オリンピックに出場できるのは12名のみ。そのためにも東藤は「アンダーカテゴリーの時に、1対1とかスピードは世界で通用して自信にもなっています。その世界で戦えるスピードをここでもアピールしていきたいです」と意気込みを語る。
U19ワールドカップでは日本がビハインドを背負った苦しい場面で、東藤はドライブなどで得点を量産する『東藤タイム』で何度も日本を救った。A代表でもその再現を狙う東藤はこう語る。「チームが困った時の起爆剤になりたい。若い人は怖いものなしとよく言うので、そういう感じで怖いものなしのゴールアタックを見せていきたいです」
現在19歳の東藤にとって、東京オリンピックは意識はしていても現実的な目標ではなかった。しかし今は違う。
「東京オリンピックは正直無理かなと思っていました。だから次のパリオリンピックを目指して頑張ろうと思っていたら、いきなりチャンスが来たので心の準備が必要でしたけど、このチャンスは逃したくないです。私はウインターカップに出ていないので、ウインターに出ていない選手でも、オリンピックのような舞台に立てるんだと世間に証明したいです」
2019年はトヨタ紡織サンシャインラビッツへの入団、U19ワールドカップ出場と飛躍の年になった。その勢いを2020年にも持ち込めるかどうか。日本代表に新たな勢いをもたらすアグレッシブなプレーを、東藤には期待したい。