河村勇輝

勝ってなお反省の河村勇輝「個人的には0点です」

先週末に行われたウインターカップ予選の福岡大会決勝、福岡第一は69-60で福岡大学附属大濠を破った。ウインターカップは今回から出場校が男女各50校から60校へと拡大。従来のインターハイ王者に加えて、全国9地域のブロック大会を制した県にも出場権が与えられる。福岡第一はインターハイを制し、九州ブロック大会でも優勝しており、福岡県には3つの枠が与えられた。そのためこの決勝はウインターカップ出場権を争うものではなくなっていたが、ライバルの大濠に対して負けられない気持ちは変わらない。

決勝で勝利してもなお、福岡第一の選手に笑顔はなかった。昨年は、ライバルの大濠がウインターカップに進めないという非情な現実を前に笑える心境ではなかったのだが、今回の表情の硬さは自分たちのプレーが不甲斐なかったからだ。55-34と大差で迎えた第4クォーターに自分たちのミスから相手の反撃を浴びたからだ。

河村勇輝は「個人的には0点です」とこの試合を振り返る。そこに笑みはあるが、勝った喜びではなく「こんな出来で負けなくて良かった」という自虐の笑みだ。

「他のどんな試合よりも、この試合には懸けるものがありました。僕にとっては福岡県のコートで戦う最後の試合で、福岡の皆さんに良い試合を見せたいのと同時に、インターハイ王者の先発ポイントガードとしての自分のプレーを見てもらいたかったです。大濠高校への意識もありました。ウインターカップで当たらないとしたら大濠と対戦するのは最後になります。そういう部分で意識するところはすごくありました」

河村勇輝

「シュートではなく違う部分でリードしなければ」

「最初から飛ばして行けというチームへの指示もあって、『自分がやらないといけない』と思ってしまいました。そこで気負ってタフショットを打って、落ち着くためにも周りに任せようとして、上手く連携が取れずに相手のプレスに掛かってしまうこともありました。ボール運びとか自分の役割のところは自分でガツガツ行ってもいいのですが、その役割のところを人に任せてしまい、逆にハーフコートでみんながプレーできる状況の時にガツガツ行ってしまって、そこを履き違えました」

河村は2年生だった昨年に福岡第一のポイントガードを任されてウインターカップを制覇。アンダーカテゴリーの日本代表でアジア選手権を戦ってもいる。同年代の選手としては十分すぎるほどの経験があってもなお、福岡県の決勝では冷静にプレーできなかった。

「ポイントガードにとって一番ダメなのはイライラしてしまうこと。常にチームで一番冷静で、一番的確にアドバイスできないといけない。自分の良さはそこで余裕を持ってプレーできるところだと思っています」。そんな自負とは全く異なるプレーをしたからこその『0点』だ。

試合中にはハドルを組んで、厳しい表情でチームメートに檄を飛ばすシーンも見られた。追い上げられて頭に血が上っていたようにも見えたが「イライラしていたわけではないですね」と河村は言う。「ちょっと強い口調ではありましたが、『何やってんの?』という感じではなく『しっかりやろうぜ!』という感じでした。でも、シュートではなく違う部分で自分がチームをリードしなければいけない、とは思っています」

小川麻斗

小川麻斗「声が出ていない雰囲気を変えていきたい」

同じく去年からスタートを任され、河村とともにキャプテンを務める小川麻斗は、大濠とのライバル関係をこう話す。「どの代を見ても大濠とは試合の時はライバルで、試合が終わるとみんな仲が良いです。今年は国体がU16になったので僕たちが一緒のチームで戦うことはなかったんですけど、良いライバル関係だと思っています。やっぱり県内でこういう強いチームがいるおかげで、全国でやっても通用すると思います」

試合については「出だしをしっかりやることを課題にして、最初もシュートが入らない時間帯はディフェンスで頑張ろうとチームで話していたことができました。我慢比べで上回ることができたと思います」と勝利をポジティブに受け止めてもいる。個人の出来には「外のシュートも入らないしミスも多かったです」と反省しきりだったが、「このメインコートに立てたことは来年に繋がるし、良かったと思います」と下級生の頑張りに目を向けるキャプテンらしさも見せた。

もう一つ、小川がキャプテンとして課題に挙げたのが『声の大きさ』だ。「人数が多いので応援の声では勝っていましたが、ベンチの15人でアップする時は声が全然出ていなくて、大濠と比べるとすごく差を感じました。その雰囲気は変えていきたいです」

ここから先、個人としてもチームとしても、プレーだけでなく『声の大きさ』でも、1年の総決算となるウインターカップに向けて仕上げの段階に入っていく。と言いたいところだが、福岡第一は天皇杯2次ラウンドに駒を進めており、11月30日には千葉ジェッツと対戦する。

この試合を誰よりも楽しみにしているのが河村勇輝だ。「ケガをしている選手が1週間ぐらい休んでも、そこからしっかり練習すれば上手くピークを合わせられると思います」と語り、Bリーグでも屈指の強豪に公式戦でチャレンジする機会を待つ。千葉ジェッツへの挑戦、そしてウインターカップ。河村と小川の高校生活ラストは刺激に満ちている。