トヨタ自動車を中心に長くトップレベルで活躍してきた渡邉拓馬は、Bリーグ開幕を直前に控えた2016年春に現役生活にピリオドを打った。プロフェッショナルのお手本のような存在としてチームメートやファンから尊敬された彼は今、アシスタントGMとしてチームをサポートする側に回っている。
昨シーズンのアルバルク東京はチャンピオンシップ準決勝で敗退。優勝候補として期待され、上々のレギュラーシーズンを送りながらもタイトルには手が届かなかった。そんなBリーグ初年度をどう総括し、どのように変えて2年目のシーズンに臨むのか。「取材を受けるのは久々ですよ」と笑う渡邉に、2017年夏の編成を語ってもらった。
優勝するためには何かが足りないと判断しました
──渡邉さんの肩書はアシスタントGMですが、A東京にGMはいませんよね。まずは渡邉さんのポジション、A東京の編成についての意思決定にどうかかわっているのかを教えてください。
純粋なGMは不在です。僕が勉強して、いずれはGMになれるよう努力していかないといけないところですが、まだ未熟ですから。バスケットボールのプレー、パフォーマンスといった面はある程度、僕が見て判断しています。選手の評価や、チームとして足りない部分を僕がまとめて、社長や事業部長などフロントと共有して、フロントが経営的な観点を含めて最終決定をします。
──では編成の話を聞かせてください。まず大前提として、昨シーズンのA東京をどう評価するかは難しいところです。『ダメ』と切り捨てるシーズンではなかったはずで、プラスアルファで優勝に手が届くと判断すれば継続路線でも良かったかもしれません。しかし実際には、ヘッドコーチも選手も入れ替える改革路線を選択しました。
トヨタ自動車からA東京に変わって、チームが今後プロチームとして続いていくために土台を作る必要があったということです。昨年はまだ体制も含め、トヨタ自動車バスケットボール部の延長という部分があり、伊藤拓摩ヘッドコーチやチームをサポートする体制も整っておらず、抜本的に見直す必要がありました。もちろん継続も一つの手でしたが、先のことを考えると「強いA東京を継続させる」のが想像しづらく、この段階で手を打って土台を作ることにしました。Bリーグになる前の、トヨタ自動車バスケットボール部としての流れがすごく強いと感じていたんです。決して悪いチームではなかったのですが、優勝するためには足りない部分があったと判断しました。
『A東京のカラー』に近づくにはまだまだ。そういう意見を僕からも上げて、理解していただきました。そのカラーというのは、常に優勝を狙え、Bリーグを牽引するために必要な力を身につけ戦う集団になること、そのためにはチーム内での練習からの厳しさや競争による向上が必要だと思っています。Bリーグになって他のチームも強くなっているので、A東京もその部分でもっとレベルアップしていかないと。そのスタイルを徹底することで勝てるチームに変わっていくはずで、厳しさと競争を重要なポイントと捉えています。
──メンバーを入れ替えることで厳しさと競争をもたらす、ということですね。昨シーズンのA東京は、メンバーが固定化されていて序列を覆すような変化がなかったようにも見えました。
以前のチームでは僕もプレーしていましたが、僕としては「強かった頃と比べると」というのがありました。当時は練習から緊張感があってピリピリしていて、試合よりも練習のほうが疲れるような感覚だったんです。伊藤拓摩ヘッドコーチの目指すバスケットはすごくレベルの高いもので、そこは絶対に間違っていなかったんですけど、選手のレベルを底上げする必要は感じていました。強いチームは本当に下から築き上げないとできないものなので。
A東京だけでなく日本のためにも手腕を発揮してもらいたい
──改革路線で一番に着手したのはヘッドコーチの人選だったと思います。多くの選択肢がある中でルカ・パヴィチェヴィッチを選んだ理由を教えてください。
僕自身がいろんな海外のコーチとやってきて、厳しさがあって土台を作るというキーポイントを考えれば、今は外国人のヘッドコーチがいいと考えました。そこで競争や厳しさ、勝利に対する貪欲さと考えた時にクラブ側からもルカの名前が挙がり、代表で活動している選手の話も聞いて、適任だと思いました。
ルカのことを知っていたわけではありませんが、日本に来た直後から練習を見に行ったり、知り合いから話を聞いたりと情報を集めていました。その時点で興味があったと言うか、良いコーチだという印象はありました。そこから間近でスタイルを見て、確認することができたのは大きいです。さらには日本人の特徴も理解していて、選手のこともよく知っていたので。
それで日本代表での契約が切れたタイミングで会いに行き、僕からはクラブの方向性を伝え「こういうチームを作りたい」という考えを率直に伝えました。僕はジェリコ(パブリセヴィッチ)と代表で一緒にやっていて、そこでルカと共通点があったので、話も噛み合ったんです。Bリーグを引っ張り、日本選手の育成をしていくというクラブが目指すものと、彼が日本代表コーチとして日本に対して抱きトライしていきたいと思っているものが合っていて、A東京としての情熱も伝わって合意に至りました。
──選手補強については、そこからルカコーチの意見を聞いて進めたのですか?
いや、コーチが決まってから「こういう選手がいい」という話はしましたが、その前から僕も大学生やリーグの試合を見て、リストアップはしていました。そこは現場ともフロント幹部にも共有していました。もちろん、最終的にはルカと話し合い、クラブの意向とルカの求める選手を当てはめ、候補選手を決めていきました。
──ルカコーチのバスケットボールのスタイルをあらためて教えてください。
シンプルですよ。ハードなディフェンスから早い展開で試合をしていきます。ただ、早い展開の中にも細やかさがあって、どんなプレーにもしっかり理由があります。それを日本人選手に説明して理解させられる。筋がしっかりと通っていますね。
──そして選手獲得ですが、日本代表クラスで、なおかつ若い選手を補強しました。
若手が多いチームになったので、ルカコーチには若手を育ててもらって、A東京だけでなく日本のためにも手腕を発揮してもらいたいと思ったからです。若手に限らず、例えば竹内譲次選手にも成長してもらいたい。どの選手にとってもルカコーチの指導は合うと思っています。
良い選手にはA東京で大きく成長してもらいたい
──日本人選手で獲得した小島元基選手、安藤誓哉選手、馬場雄大選手。それぞれ、どこを評価したのかを教えてください。
まず小島選手はコントロールの力もシュート力もあって、若手の中でも有望な存在でした。昨シーズンを見ていても京都(ハンナリーズ)のスタイルよりはもっとアップテンポのバスケが合うと思っていました。あとは今A東京にいる選手との相性、若いけどリーダーシップがあるところですね。田中大貴選手と仲が良くて、年下ですが大貴選手を使うことのできるポイントカードです。そういう意味で田中選手にも良い影響があると考えました。
安藤選手はもともと、栃木(ブレックス)に入る前から注目していました。栃木の時はあまり試合に出ていませんでしたが、試合前のルーティーンを見ていて「なぜ出ないのかな」と思うぐらいでした。秋田(ノーザンハピネッツ)での昨シーズンは多分、本当はもう少し正統派のポイントガードとしてやりたかったところで、秋田のチーム状況もあってアグレッシブに行っていると見て取れたので、そういう力もあるんだなと。
昨シーズンのA東京の弱点としては、ポイントガードのアウトサイドの不安定さがありました。しっかりとチームをコントロールできて、なおかつ得点力もある。そう考えると小島選手と安藤選手の2人でした。ポイントガードは日本人で固めるつもりで、正中(岳城)選手は2番ですから、伊藤(大司)と小島選手、そして安藤選手の3人が必要でした。
──安藤選手について意外だったのはレンタル移籍だったということです。
あれだけの選手なので、秋田としても簡単には手放せないと思います。日本代表にも入り、まだまだ伸びしろのある選手です。その中で、秋田さんが安藤選手の成長を考え、レンタル移籍に至りました。ですから、A東京で大きく成長してもらいたいです。A東京だけでなく日本を見た場合でも彼には常にトップレベルでやってもらいたかったし、ルカの指導で成長してもらいたい。たとえ1年でも彼にはプラスだと思います。2018‐2019シーズンについては、今シーズン終了後に秋田さん、A東京、安藤選手で話していくことになると思います。
──馬場雄大選手の獲得はサプライズでした。海外志向が強いのは本人の発言から明らかでしたし、Bリーグに参戦するにしても特別指定選手でシーズン後半からになると思われていました。
馬場選手には常に高いレベルを目指すという気持ちがあって、それでA東京に来ることになりました。今後日本代表を背負うであろう将来を見据えた時に、そういうモチベーションがある選手を是非ウチで成長させたいと。そこもA東京ではなく、彼のため、そして日本のためにと考えています。そういう意味で、彼にとって一番良い環境を提供できるのがウチだと思っています。
海外に挑戦しやすい環境はコネクションを含めてありますし、去年は田中選手も行っています。馬場選手がこの先アメリカに挑戦したいと言えば、そこは尊重して行かせたいです。今は将来を見据えた準備期間で、ルカからファンダメンタルを教えてもらって、Bリーグで揉まれて、そうやって東京オリンピックに向けてステップアップしてもらいたいです。
アルバルク東京の渡邉拓馬アシスタントGMに聞く2017年夏のチーム作り(後編)
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