絆を深めた選手ミーティングが快進撃のきっかけに
NBLファイナル、アイシン三河に2連敗を喫した後、東芝神奈川の指揮官である北卓也は、「コート上で問題を解決しようとしてないところが一番問題」と選手たちのコミュニケーション不足を指摘していた。これまでも北ヘッドコーチは、「スタッフから言うのは簡単だが、選手同士で解決することの意味がある」とキャプテンの篠山竜青らに対して助言している。
5戦3戦勝方式において後がない状況の中、ベテランのジュフ磨々道とニック・ファジーカスは、「もう一度開き直って自分たちのバスケットをやろう」と仲間たちを鼓舞する。ファジーカスは、「一度もあきらめることはなかった。2連敗したが、レギュラーシーズン中もアイシンには2連敗した後に3連勝していたので、同じことができると自信を持っていた」と話しており、チームの強さを再認識させた。
3戦目、辻直人は30点を挙げて勝利に貢献。辻自身にとって自信を取り戻したとともに、チームに勢いを与えた。その辻は3戦目を前に、「リードされると厄介なので、自分たちが先手を取らなければいけない」とキャプテンに伝える。篠山は、「アイシンに勝つにはトランジションを早くすること」を全員に徹底させ、ディフェンスとトランジションで貢献すべく出だしから全力でプレーをしたことも勝因の一つとなった。
対するアイシン三河のヘッドコーチ、鈴木貴美一は、3戦目以降の東芝神奈川の変化について、「コンディション良く、シュートも良く入る素晴らしいバスケをしていた」と感じていた。実際には、「オフェンスを変えた」と北ヘッドコーチ。
「1戦目と2戦目はピック&ロールのところで攻めようとしてしまって、ゴール下にドライブに行ってもそこから展開できないプレーが目立っていた。そこで目線を変えて、我々はドライブよりも3ポイントシュートが得意な選手が多いので、外側で崩すプランに変更。3戦目に辻とニックのところでうまく崩せたことで、そこからうまく機能し始めた」
一発勝負ではないからこそ、チーム力と対応力が試されるのもプレーオフの醍醐味だ。
開き直ったらものすごい力を出した、それが真の実力
北ヘッドコーチが指摘していたコート上での問題解決は、第5戦ではあちこちで見て取ることができていた。篠山キャプテンはコート上でもベンチからも、大きな声を掛ける。ブライアン・ブッチがフラストレーションを溜めそうになった時、そっと磨々道が近寄って言葉を掛けた。冷静さを取り戻したブッチはその後、2本の3ポイントシュートを決めている。2連敗した翌日に第3戦が行われたが、東芝神奈川は一夜にして別のチームへと変貌し、3連勝を飾って頂点に駆け上った。
北ヘッドコーチは、「どこでチーム力が上向いたかを考えたら、ある一つの選手ミーティングがきっかけだった」ことを明かす。
レギュラーシーズン最後のアイシン戦を迎える週の練習後、そのミーティングは行われた。議長と書記を務めた篠山がその時の状況を振り返る。
「主に話したのはニックと磨々道。若手を中心にここからプレーオフで勝ち抜くためにもっとチームを成長させるところ、変えなければいけないところを議題にして話し合いが行われた。練習や試合に向かう気持ちの持ち方から具体的な一人ひとりの役割であったり、迷っている若手の質問に対してニックや磨々道が『こうしたらうまくなれる』というような質疑応答も含め、かなり内容の濃いミーティングとなった。その後、アイシンに2連勝したのが非常にチームとして自信になった」
セミファイナルのリンク栃木戦は3戦目、そしてファイナルも5戦目までといずれも最終戦までもつれ、王手を懸けられてから連勝して勝ち抜いてきた東芝神奈川の選手たちは、プレーオフを通して着実に成長を遂げた。
「タフなシリーズだったが、強いアイシンに3連勝出来たのは選手たちの成長を感じ。メンタルの成長もすごく感じる。開き直ったらものすごい力を出し、それが真の実力だと思う」と北ヘッドコーチも実感している。
東芝神奈川にとって、母体企業が大変な時期だったことも少なからず発憤材料となった。優勝を決めた直後、辻は「東芝に明るいニュースをもたらすことができてうれしい。明日はテレビと新聞一面で流してください」と多くのメディアに向けてリクエストする。北ヘッドコーチもまた、困難を乗り越えてつかんだ優勝に対し、「スポーツの存在意義をすごく感じるとともに、選手たちを誇りに思う」と話していた。
平均入場者数1005人──。赤字続きのバスケ部だったが、最後の最後で優勝賞金1000万円を『稼ぐ』ことができた。
企業チームとプロチームが混在するJBL~NBL時代は終止符を打ち、いよいよ完全プロ化となるBリーグが今年9月より開幕する。その注目度とやっと前進できる変化に対し、選手たちは期待を寄せていた。