白熱した優勝決定戦は14番対決からスタート
決戦の朝は土砂降りの雨だった。傘を持っての待機列はさぞ大変だろうという心配を晴らすように、午前中のうちに雨は上がった。
2日連続でチケット完売となり、満員に膨れあがった代々木第二体育館。先に2連勝したアイシン三河に王手を懸けられながらも、その後の2戦を勝利して追い付いた東芝神奈川。2勝2敗となり、第5戦までもつれ込んだNBLファイナルは、最高峰の戦いにふさわしい白熱した試合となった。
序盤にリードを許して追いかけるアイシン三河は、最後の場面で金丸晃輔の3ポイントシュートが決まり、3点差まで追い上げる。逆転を目指すアイシン三河の激しいディフェンス。ショットクロック1秒、辻直人が放った3ポイントシュートがブザーと同時にネットをすり抜ける。どちらも最後まで死力を尽くして戦い抜いたが、76-70で東芝神奈川が逃げ切り、2年ぶりに王座奪還に成功した。東芝神奈川はクラブとして、4度目のリーグ制覇となった。
第4戦の第2ピリオドと同じように、東芝神奈川の一方的な展開となった立ち上がり。辻が次々と得点に絡み、一気に9-0とリードを奪う。開始3分を切った時点での出来事に対し、「勝たないといけないと意識したことで少しだけ固くなってしまった」と橋本竜馬は言う。タイムアウトを取って仕切り直したアイシン三河の反撃が始まる。3戦目以降、アキレス腱の痛みを抱える金丸は本来の姿とはほど遠いパフォーマンスだった。しかし、負ければ終わるこのタイミングで足を使って相手を揺さぶりながらゴールを切り拓いていく。辻、金丸と両チームの14番が目立った第1ピリオドは18-15、アイシン三河が3点差まで詰め、これで勝負は面白くなった。
辻はこのファイナルが始まる前に、「アイシンは個が強いチーム。でも、東芝はチームとしてどこにも劣っていない」と話していた。その言葉通り、第4戦に続いてセカンドチームが躍動する。比江島慎が速攻を決め、18-17と1点差に追い詰めて始まった第2ピリオド。しかし東芝神奈川は、藤井祐馬がスティールからゴールを挙げ、山下泰弘の3ポイントシュートで得点を離していき、41-30と11点差まで広げて前半を終えることができた。
チーム力、総合力で無限大の力を発揮
後がないアイシン三河は、体格差で勝るアイザック・バッツを起点に巻き返しを図る。3本のポイントシュートを放った金丸だったが、これが決まらず、流れを呼び寄せることができない。「金丸を封じるように指示を出し、本当に良い活躍をしてくれた」とヘッドコーチの北卓也が指示を出したのは、長谷川技だった。今日は2得点に終わった長谷川だが、アイシン三河を勢い付けない自分の役割を全うした。
辻がディフェンスと交錯して負傷し、一時コートを離れる。代わって入った藤井に対し、第4戦の反省点を踏まえて、比江島は身長差を生かしてポストアップし攻め込んでいく。アイシン三河の誤算は、インサイドを制し始めていたバッツが3つ目のファウルを犯してしまったことだ。逆に東芝三河は、ブライアン・ブッチが3ポイントシュートを決めて57-47とリードを保ったまま、勝負は最後の10分間へ。
2年前、東芝神奈川が優勝した時、ニック・ファジーカスの控えのセドリック・ボーズマンの活躍があった。優勝するには、やはりもう一人の外国人選手であるブッチの力が必要であだった。今日はその期待通りに10点を挙げてチームを勢い付けた。
比江島がエースの自覚を持って次々と得点を挙げ、橋本はリーダシップを発揮し、そして金丸も復調。鈴木貴美一ヘッドコーチのシナリオは、「最後の最後に逆転する予定だった」。しかし、それを狂わせたのは、残り4分47秒でのバッツのファウルアウトだった。
最後まで諦めず、金丸が必死に3ポイントシュートを決めたが、辻もまたタフショットとなる3ポイントシュートを決め返し、勝負あり。
柏木真介は、「東芝はチームとして良いバスケをしていたと感じた」と相手を称えたことで、辻が話していた「個のアイシン三河vsチーム力の東芝神奈川」という図式が勝敗を分けた。北ヘッドコーチは、「個人の力もそうだが、やはりチーム力、総合力は無限大に強くなることをあらためて感じた」と自信を持って勝因に挙げている。
ただ、個のアイシン三河という結果にはなったかもしれないが、同じ赤いシューズを履き、東芝神奈川を最後まで苦しめたチームディフェンスは、決してチーム力がないわけでない。
決戦が終わり会場を後にした時には、キレイな夕陽が代々木第二体育館を照らしていた。ついさっきまで会場を彩るチームカラーのエンジと青と同じく、青空とともに夕焼けのカラーリングは、死闘を終えた両チームを労っているようだった。
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