取材・写真=古後登志夫

昨シーズンはインターハイとウインターカップの2冠を達成。それでも井手口孝監督は「何も変わらんけんね、2冠取っても」と話す。2冠の原動力となった選手たちが卒業し、新チームは「まだよちよち歩きですよ」と言うが、それでもどの大会に出ても強さを発揮。今回のインターハイでも当然のように優勝候補の筆頭に挙げられる。「何も変わらん」と言うが、2冠効果は間違いなくある。分かりやすいのが部員数で、今年は70名の大所帯になった。ただ、井手口監督の中でやるべきことは確立されており、それを粛々と進めるだけ。『王者』としてインターハイに臨む福岡第一、その現在地を聞いた。

前年2冠のプレッシャーを「粋に感じてやろうぜ」

──インターハイ間近となりましたが、今年のチームはどのようなチームですか?

一人ひとりの力は、去年の(重冨)友希や周希と比べるといろんな意味で落ちるかもしれません。ただ、その分はチームバスケット、結束力でカバーできています。去年がチームでやっていなかったというわけではないのですが、友希や周希が目立った感じはありました。それでも今年は総合力という意味では上がっているかもしれません。あわせて今年はベンチメンバーの力がスタートに随分近いと感じています。

──ディフェンスから形を作って走るバスケットは変わりませんか?

そこは変わりません。いつもそうですが、ウチの強みは守りの計算がある程度できること。バム(バム・アンゲイ・ジョナサン)が随分成長したかな。走るのは速いです。だいぶ速くなった。1月から4月までケガ人だらけで、そこはやっぱり無理したのかもしれません。それでも九州大会からケガ人がゼロになって、今は良い感じです。

でも、まだよちよち歩きのチームですよ。ウインターカップまで行けば一年の集大成のゲームができます。だから何としてもウインターカップには出ないといけない。そのためにはインターハイで決勝まで行って、ウインターカップの出場権を取りたいんです。

──昨年に2冠を取ったことでのプレッシャーはありますか?

あまりないですね。子供たちにも「褒められることはないからね」と言っています。優勝しても、それは辛いというか、「勝って当たり前」みたいな言い方をされたら彼らもキツいですよ。でも、「それを粋に感じてやろうぜ」と。

まあ、彼らにとっては全国大会のプレッシャーよりも、毎日の練習で僕から怒られないことのプレッシャーのほうが大きいでしょう(笑)。試合よりも日々のことです。毎日ちゃんと手を抜かずにやっていることが結局は試合に出るんです。ここから最後の調整もありますけど、ここまでちゃんとやれたチームとやれなかったチーム、だいたい決まっているんですよ。

──部員数が約70名という大所帯になりました。良い面だけでなく、目が行き届かなかったり練習量が減ったりと悪い面もあるのでは?

だいたいウチが良い結果を出す時は部員が多いんです。それは知らず知らず毎日の中で切磋琢磨があるんだと思います。相当工夫しないと練習ができないのは確かで、時間だとかを細かくしてあげないと。チームの中にいくつもチームを作ったりもしています。全体のリーダーは井出(拓実)だけど、それ以外のグループのリーダーを他の3年生がやっていたり、2年や1年の中にもリーダーができたり。意外と自立するんです。幸い、今年は新しい先生も入ってくれて、一生懸命練習についてくれます。体育館は2面使えるし、週に2回はもう1つ大学のコートを使わせてもらっています。なので練習量は落ちていないんです。

いつも言うのが「お前たちは70何人の中の5人だからね」ということです。ゲームに出られない選手がそれだけいて、彼らは彼らで上がろうとして一生懸命にやっているので、彼らが支えているという言い方は決してしたくないんだけど、そういうのを背負うのはありますよね。

チーム内競争はもう毎日のことです。先日台湾に遠征して、県大会ぐらいから12人はある程度固定しましたが、インターハイはこれで行っても次のオールジャパンの予選、国体では分からない。ウインターカップをやりながら来年のことも考えないといけないです。

「ベースとなるディフェンスや速攻は変えない」

──毎年選手が入れ替わる高校で、短期間でチームを作り上げていく秘訣はありますか?

「いろいろ変えないこと」だと最近思うようになりました。福岡第一のバスケットは、これとこれだけは絶対変えない。例えば今年はポイントガードが井手になったから、去年よりドライブの時間を長くするとか短くするとか、ブレイクをもらう場所を変えるとか、そういうのは最終的に僕が使おうとする選手の特性を生かしたものにする。だけどブレたら勝てないんです。

いろいろやりたくなりますよ。ディフェンスを何種類も持つとか、オフェンスのパターンも何十種類もあったほうがいいとは思うけど、結局今年の5人に合うオフェンスのパターンはいくつなのか。勉強して良いものは取り入れますが、ベースとなるディフェンスや速攻は変えません。いろんな中学から選手が来るけど、そこだけはウチに合わせてもらいます。

負けている時はそこも揺らぐわけです。勝てなかった何年間は僕も揺らぎました。アンダーカテゴリーの仕事で東京に行くことが多くて、東京でいろんな人からいろんなことを学びます。それを使ってブレブレだったのが井手の兄貴たちの時くらいかな。勝てる可能性もあるけど負ける。大濠に勝って県大会で優勝したかと思えば九州大会で1回戦負け、そんな天国と地獄が1カ月のうちに来るような。それはブレていたからですよね。

日の丸をやめて戻って来てちょうど3年です。そういう意味で去年結果が出たということは、自分の信じていることは間違ってないんじゃないかと思うわけです。選手たちはキツいでしょうが、そうやっていれば今年も良い成績が出るんじゃないかとは心の片隅で思っています。

いろんな仕事をさせてもらっていますが、足はここにあります。今度は国体もやるので、やるからには頑張りますが、最終的にどこが大事かとなれば福岡第一高校のバスケットボール部ですよ。後継者が育ち、学園からもういいですと言われるまでは、ここをやめることはありません。

──それだけ指導に入れ込むモチベーションはどこから来ているのですか?

こいつらの前で言うのは恥ずかしいけど(笑)、高校生が好きなんでしょうね。大学とかBリーグになると、僕は全然興味が沸かない。いまだに理由は分かりませんが、高校生とやるのが僕には合っています。あと何年やれるか分からないけど、ここが終わったらもう終わりかな。

「スピードだけならアジアのこの年代では一番です」

──年間を通じて休日はほとんどないと思いますが、リラックスする時間はありますか?

練習で目一杯できる時が週に1回ぐらいあります。僕がわあわあ言って、選手たちもわあわあ動いて。それがうまく行った日があれば、もうそれで大丈夫です。なんか、そういう日があるんですよ。料理人みたいなものです。良いネタを仕入れた日に良いお客さんが来て、良い具合に料理ができて「うまい」と言ってもらえる。全部うまく回って、それで「良かったなあ」って。

同じメンバーで同じことをやっていても、毎日マッチするわけじゃありません。それはほんの些細なことです。もしかしたら選手はその日ものすごく勉強を頑張ったとか、体育の授業で張り切って疲れちゃってるとか、逆に1時間目から6時間目までずっと寝てて元気かもしれない。僕は僕で、校長先生に怒られて不機嫌かもしれない。だから練習に行くまでの状況や気持ちがいつもベストにはならないんです。

ウチの練習は16時15分に始まるのですが、僕も間に合わないことがあります。本当は15時半に、選手より先に行きたいんですよ。それが選手が先に来ていて、後から着替えるとなると、そこでもう引け目があるんです。その日の練習はほとんどダメです。今回の台湾遠征は1週間あって、もうバスケットの仕事だけしていればよかったんです。それはすごく楽しいですよ。普段は16時から体育館に行くために、それまでの時間を全部使い切らないといけない。それで練習を考える時間がなくなってしまうとなると、それはちょっとね。

──それでは、あらためてインターハイへの意気込みを聞かせてください。

まだまだチームはできていませんが、スピードだけならアジアのこの年代では一番です。ただ、そこからの確実性がまだない。シュートもレイアップもポロポロ落とすし。去年のこの時期には友希、周希は新人戦の頃はポロポロやっていたのが決められるようになっていました。それが井手にしろ小野(絢喜)にしろまだまだ。松崎(裕樹)なんかはまだ行く判断と止まる判断、さばく判断のところです。それだけのスピードでやっているから、難しいことではあるんですが。

でも、それをずっとやっていけば彼らが将来もバスケットをやる中でプラスになります。インターハイまでにどれだけ確実性を上げられるか分かりませんが、速さだけは40分やり続けようと思っています。昨年のように、試合を重ねるにつれてチームのレベルが上がっていくことを期待しています。