田中大貴

負け癖がつき「アジアで戦っている時のよう」

「これが現実だと思います──」

モンテネグロに65-80で敗れた直後、田中大貴は唇を噛み締めながらそう語った。

5連敗で大会32チーム中31位。過去最強の布陣が揃ったことで、選手たちも、そしてファンも大きな希望を抱いて開幕を迎えたが、世界の壁は想像以上に高かった。

「いろいろな方に注目され、ワールドカップでも戦えるんじゃないかとか、今まで以上の期待を受けながら、こうやって世界に来ました。みんなどこか戦えるんじゃないかとか、そういうイメージというか理想がありましたがこの結果が現状で、終わってみればコテンパンにやられて現実を見せられた感じです」

モンテネグロ戦は序盤から2桁リードを許したが、粘り強く戦い、第3クォーター途中に追いつくことができた。それでも、要所で踏ん張れず、惜敗とは言えない結果となった。指揮官のフリオ・ラマスはフィジカルコンタクトに差があると常々言ってきたが、田中もそれに同調した。そして、アジアで勝てなかった頃の姿のようと分析する。

「言葉では簡単にいろいろ言えると思うんですけど、やっぱり40分間フィジカルにコンタクトをし続けたり、オフェンスでも足を動かすことを徹底できなかったです。どんどんボディーブローのように食らって、足が止まっていました。終盤にその差が出ます。イメージとしては(八村)塁や(渡邊)雄太、ニック(ファジーカス)が帰化する前の自分たちがアジアで戦っている時のようで、徐々にリバウンドを取られたり、もろさが出て、最後はこうなってしまう」

田中大貴

「守りに入ってしまったところはあったのかもしれない」

最後の試合も勝てなかったが、2試合連続で大敗を喫したパフォーマンスからの向上は見られた。「自分の理想は今日みたいに、みんながディフェンスを激しく頑張って、なるべく相手にタフショットを打たせて、気持ち良くさせない。これをどれだけ40分間継続してやれるか」

フィジカルコンタクトに差がある以上、まだ戦える一定の選手にプレータイムが偏ってしまい、その結果として終盤にガス欠を起こす。田中はそれを理解しつつ、戦略的にも先手を取らないといけないと訴える。

「一人の選手がずっと出ているよりは、交代してそこを切らさずにやるしかないのかなと自分は思います。引いているわけではないですけど、自分たちから仕掛けないディフェンスは、個の力で勝っている、みんなのレベルが高いチームがやることだと思う。自分たちはみんなが他のところをカバーしたり、ローテーションを動いたり、そこをもっと突き詰めていかないと。普通に戦って勝てるほど甘い相手ではないので」

田中大貴

「上手くこなそう、こなそうとしていた自分がいる」

田中は全5試合に出場し、平均22.9分の出場で6.2得点1.8アシスト1.2スティールを記録した。慣れないポイントガードや、変則的な起用法などもあり、スタッツだけを見れば田中にとっては不完全燃焼の結果となった。それでも田中は結果を受け止め、前だけを向く。

「上手くこなそう、こなそうとしていた自分がいるのかなと思います。ガードはミスをしたらいけないポジションで、そこで少し守りに入ってしまったところはあったのかもしれないです」

「コートに出ている5人が良いパフォーマンスをしていたら引っ張ると思う。最初の10分出て、次の10分出なくて、最後にまたパッと出てっていうのは、なかなか難しい展開でした。でも、短い間で自分がどれだけ良いものをコートで出せるかというところだと思うので」

「これが現実」と田中は言うが、ワールドカップに出場できなければ、世界との差を知ることもできなかったのも事実である。明確な現在地を知り、危機感を持てたことも一つの収穫だ。この経験を経て、Bリーグではより精度の高いパフォーマンスを見せてくれるに違いない。