佐藤賢次

Bリーグ開幕から3年続けてタイトルを逃した川崎ブレイブサンダースが、常勝軍団の復権を目指してチーム刷新に乗り出した。その第一歩として新たな指揮官に任命されたのが佐藤賢次だ。現役時代から川崎一筋、北卓也ヘッドコーチの下で8年間に渡りアシスタントを務めていた佐藤は緻密な分析力に定評があり、満を持してのヘッドコーチ昇格となる。伝統と変革を担う若き指揮官の意気込みを紹介する。

「変化をネガティブに捉えている選手はいません」

──伝統を引き継ぎながらも変革が求められる川崎ですが、今シーズンの陣容について教えてください。新加入の大塚裕土選手と熊谷尚也選手については、どのように起用する想定ですか?

エース級の2人が川崎に来てくれたので、その思いにこちらも応えないといけません。コーチとしてまずやるべきは、コミュニケショーンをしっかり取り、彼らの強みを理解して、輝ける場所を作ることです。そして2人の加入で一番期待しているのは競争で、そこは楽しみで仕方ないです。

例えば長谷川(技)は、同じ3番に熊谷が入ったことが刺激になっているのは間違いないです。もう初めて見るぐらい腕が太くなっていて、テリーマンみたいになっています(笑)。これまで1番から3番は篠山(竜青)、辻(直人)、長谷川が先発で、シックスマンに藤井(祐眞)という形でしたが、今は1番で篠山と藤井、2番で辻と大塚、3番で長谷川と熊谷が全くの横一線で練習からバチバチやっています。過去の序列は完全に壊しますし、正直、ポジションもどうなるのか分かりません。もちろん鎌田(裕也)、林(翔太郎)、青木(保憲)も昨シーズンの悔しさを出してハードにやっています。この競争がチームの新たなステップアップになると期待しています。

今まで作ってきたものを一度壊す作業が良い影響を与えています。ウチは本当に真面目で前向きな選手ばかりで、そういう変化をネガティブに捉えている選手はいません。そこはウチのすごく良いところで、これからの練習でどうなっていくのか楽しみですね。

──アシスタントコーチには勝久ジェフリーさん、穂坂健祐さんとB1のヘッドコーチ経験者を加えました。2人を選んだのは、どんな考えがあってのものですか。

実は、オファーをするかしないかに関係なく、結構な人数のコーチと話をして、今の2人に決めました。自分は東芝と川崎しか知らないですし、日本代表のアシスタントを3年やりましたけど、その時は大学で監督だった長谷川(健志)さんがヘッドコーチだったので、知っているコーチの下でした。そこで佐々(宜央)と会って、彼は強烈なキャラで素晴らしい考えのコーチなので、すごく影響を受けたところはあります。すでにバスケの話をいろいろと3人で始めています。自分と全然違う経験を重ねてきて、自分の知らないことを知っているコーチが同じチームに2人いる。彼らと話をする作業が今はすごく楽しいですね。

佐藤賢次

「点の取り合いに持ち込んで勝つ気は全くないです」

──昨シーズンを振り返ると、何が課題だったと思いますか。数字としては、3ポイントシュートの試投数が少ないにもかかわらずオフェンスリバウンドが少ない点が象徴的な部分として出ています。

毎年、シーズン序盤はオフェンスが上手くいかずに苦労しますが、それを修正して最後にはみんなが一つの共通認識で攻められるようになっていく。それがウチのスタイルで、こうなるとどこのタイミングでシュートを打つのかみんな分かって、そこからリバウンドにいつ行けばいい、と整備されていきます。

しかし、昨シーズンはニック(ファジーカス)の合流が遅れ、シーズン中も代表活動があってフルメンバーで練習ができずに修正しきれなかった。最後の最後まで「これが川崎のシュートだ」みたいな攻めが少なかったんです。そうなるとリバウンドも取れなくなります。水曜ゲームが増えたり、代表メンバーが途中で抜けたりする中でどうやってケミストリーを高めていくのか。スケジュールの組み方、練習のやり方を今シーズンは変えないといけないです。

──「川崎らしいシュート」と言われましたが、ヘッドコーチから見た川崎のアイデンティティはどんなところですか。

ウチが一番良い時は、相手のディフェンスを読み切っている。リード&リアクトで、こう動いたらディフェンスがこう来るとチームとして理解して動いている時です。こちらのピック&ロールに対する相手の反応の一歩先を読んでパスをどんどん繋いでいく、そうやって相手をイラつかせるのがウチの強みです。でも、そういう上手さに頼っていたら上位チームには勝てません。激しさや運動量の中に、この上手さを出せるようにならないといけないです。

Bリーグになってディフェンスのインテンシティが上がっていく中で、今までやれていたことができなくなってきました。例えばアルバルク東京とか守備の激しい相手になると、スクリーンがしっかり掛けられなくなる。そうなると、スクリーン自体がただのすれ違いになって有効でなくなる。セットプレーに行く前の前提でうまくいかないことが増えていきます。そういったフラストレーションが溜まってオフェンスが我慢できなくなる。それがディフェンスにも影響して、チームとして崩れていくのが負けパターンでした。

だからこそ、まずは自分たちも相手にやりたいことをやらせない激しさを持ったディフェンスを作る。それを日常にして練習からできれば、試合でも相手の厳しい守備を回避できるメンタル、方法が自然と身につくと思います。

点の取り合いに持ち込んで勝つ気は全くないです。目指すのはディフェンスのぶつかり合いで対等もしくは、上に行くくらいになる。そこにプラスして、ニックを筆頭にした上手さで有利に立つ。それができれば優勝できますし、今トレーニングを見ていても選手たちはそれだけの強度を持てると思っています。

佐藤賢次

「言うべき時だけ、タイミングを見計らって言えばいい」

──川崎にとって大きなアドバンテージとなるファジーカス選手と外国籍選手の組み合わせについて、どのように考えていますか。

僕は誰よりもニックの1プレー1プレーを見ているうちの一人だと思います。彼がどの場面でどんなシュートを打つのか、どういう形になればシュートが入るのか分かっているつもりなので、そうなるようなフロアバランスを生み出す、なおかつニックがベンチに座っていてもチームとして点が取れる、そういう仕組みが作れるような外国籍選手を探しています。

──川崎は2019-20シーズンのオープニングゲームを担うことになりました。ヘッドコーチとして初めて迎える公式戦の相手は宇都宮ブレックスで、安齋(竜三)さんも同世代で昔から切磋琢していた間柄ですよね。先ほど名前が挙がった琉球の佐々さんも含め、意識する相手ですか。

安齋は大学時代からやりあってきて、古い付き合いです。佐々と安齋の2人には負けたくないという意識はあります。ただ、コーチとしての自分は彼らのように強烈なリーダーシップで統率するタイプではないと思っています。北さんの下でやってきた影響もありますが、自分から安易に答えを出さずに、選手たちに答えを出させるように仕向けるタイプです。自分が前に出ていくような感じにはならないと思います。

現役時代も、ポイントカードとしてどうやって他の4人に気持ち良くシュートを打たせるのかを考えて、自分がシュートを打つのを忘れるくらいでした。言うべき時だけ、タイミングを見計らって言えばいいかなと。そういうズルいところもあるんです(笑)。

──初の実戦としては8月31日、ホームでプレシーズンゲームが発表されています。

もちろんやるからには勝ちたいです。ただ、今いろいろと議論をしてチームの軸を作っている中で、31日の試合をファンの皆さん、メディアの皆さんが見て「今年の川崎はこれを中心にするんだ」というものが分かるような戦いができれば僕の勝ちかなとは思います。そこで何も見えなくて、変わっていないと言われたら、もう一回考え直します。

──最後に、ファンに向けてのメッセージをお願いします。

今まで川崎のことが好きだった方々にとっての良いところは「川崎らしさ」として引き継ぎ、それと同時に「すごく変わったな」、「今年の川崎は楽しそうだな」と思ってもらえるチームを作ります。それは宣言しますので、楽しみにしていてください。