1シーズンを通して試合に出て、大きく成長
現在、男子日本代表はサイズのある若手を中心とした強化合宿を行なっている。日本代表のフロントコートを見ると八村塁、渡邊雄太、ニック・ファジーカスはオーストラリアに次ぐアジア随一のトリオだ。彼らが揃い踏みすればアジアの舞台では主導権を握ることができる。しかし、ワールドカップ、オリンピックと世界を相手にする大会ではそうはいかない。また、プレーの強度を維持するためにも4人、5人によるローテーションを用いるのが世界のトレンドであり、日本代表にとってもビッグマンの層を厚くする必要がある。
そうなった時、ビッグマンの新戦力として注目したいのが渡邉飛勇(ヒュー・ホグランド)だ。もともと日本でいう中学2年生から高校2年生までバレーボール中心の生活を送っていた彼は、まだバスケットボールに本格的に専念してから数年しか経っておらず、荒削りな面は否めない。それでも207cmの高さとバレーボールで培った跳躍力は大きな魅力である。
今回の合宿、渡邉は残念ながら負傷でリハビリメニューをこなすのみに留まっている。しかし、「6週間、ポートランド大学でこの合宿に向けて準備をすることができました。今まで課題だった腰とか膝周りのケガではなく、今日参加できなかったのは残念です」と、深刻なものではないと語る。
大学1年目はレッドシャーツ(チームに帯同できるが試合に出場できない待遇)で過ごし、公式戦に出場したのは2018-19シーズンが初めてとなったが、そこで1試合平均4.5得点、3.2リバウンドをマーク。先発3試合を含む30試合出場で平均15分以上のプレーとローテーション入りを果たした。八村のゴンザガ大と同じWCC(ウェストコーストカンファレンス)に所属するポートランド大は7勝25敗と散々な結果に終わったが、1シーズンを通して試合に出続けたことは収穫だ。
伸びた部分はローポストからの動きであり、中でも「スピンムーブが自分の武器となっていきました」と言う。そして、手応えを深めた試合として全米有数の強豪ゴンザガ大戦を挙げる。
「八村との対戦にもなったゴンザガ戦で、自分のインサイドゲームを止めに相手がダブルチームをしてきたのは、自分にとってすごく光栄なことでした」と、チームが66-89と敗れた中でも23分出場8得点6リバウンドを記録した一戦は大きな自信となった。
「一番の収穫は、ひたすらハードワークできたこと」
ただし、日本代表において彼が意識しているのは、ゴール下で点を取ることよりも『縁の下の力持ち』として味方がより気分よくプレーできる状況を作り出すこと。「代表における自分の仕事は、ペリメーターの選手だったり他のポジションの選手の仕事を簡単にさせることです。自分よりスキルを持っている人がここにはたくさんいるので、地道なプレーで他の人が仕事をしやすくなることを心がけています」
また、スピンムーブなどスキルの部分以外でも、低迷したチームの中でも1シーズンをしっかり戦い抜いたことでメンタル面も鍛えられたと強調する。
「一番自分にとって大きな経験だったのは、困難があってもそれに立ち向かって、ただひたすらハードワークできたことです。成績が示すように理想のシーズンではなかったことは、言うまでもありません。でもそういう状況の中でも、どうやって常にハードワークをするか。自分がコントロールできることにフォーカスしていました」
もちろん渡邉にとってワールドカップ、その先にある東京オリンピックは是非ともプレーしたい舞台である。ただ、彼はあくまで平常心で日々の練習に取り組むことを重視する。
「ワールドカップ、五輪に出るのは大きな目標ですけど、出場できるかどうかは最終的に自分がコントロールできない部分です。だから、自分ができることは、代表の素晴らしい選手たちを相手に、自分のためだけでなく彼らのためにもなるような競争をすること。そうしてお互いが刺激し合えるようになっていきたい。できることにフォーカスするだけです」
NCAAでの厳しい経験を得て心身ともにたくましさを増した20歳の若者が、これからどこまで伸びていくのか大きな楽しみだ。そして、彼の成長は日本のインサイド陣の充実に直結する大事な要素となってくる。