「誰が活躍しても大喜びできるようなチームメートたち」
日本人ビッグマンの役回りは難しい。プレータイム争いをするのは屈強な外国籍選手。年々、Bリーグの外国籍選手のレベルが上がっている中で、ローテーション入りをしている日本人ビッグマンは多くない。どれだけコンディションが良くても、外国籍選手のバックアップにまわり、ベンチを温める時間は長くなる。
群馬クレインサンダーズの谷口大智は、11月2日にホーム開催された横浜ビー・コルセアーズ戦で、第1クォーターの残り5分57秒でコートに立ち、2本の3ポイントシュートを沈めて序盤の流れを作った。
「3ポイントを決めるのが仕事かなと思っていますし、それ次第でチームに勢いをもたらせるかどうかも変わってきます。しっかりと流れを繋ぐことはずっと意識してやってきたことです」。谷口は自身の役割をこのように認識し、コート上で表現した。
ヨハネス・ティーマンが脳しんとうで欠場している影響を受け、好調な谷口の出場機会は増えるかと思った。しかし、第2クォーターでの出場はなく、第3クォーターも3分強の出場にとどまり、第4クォーターとオーバータイムはベンチで戦況を見守った。しかし谷口は自身の起用方法をしっかりと受け止めていた。
「1クォーターが終わった時点で、もしかしたら今日は出る時間が長いかもなと思っていました。でも別にそれがなかったとしてもメンタル的に変わらず、出たら仕事をすることを意識しています。年齢的なところでタイムマネジメントなどで気を遣ってもらっているところもあるので」
この試合の群馬は、横浜BCを40分間に渡り追いかける展開となったが、第4クォーターの残り0.4秒で細川一輝がプットバックで同点弾を決めてオーバータイムに持ち込み、89-82で大逆転勝利を収めた。終盤の攻防をベンチで見守っていた谷口は、どのような心境だったのか。
「ここ最近、一輝が不調で悩んでいたのも知っていたので、本当に心の底から『一輝、おかえり!』ってめちゃめちゃうれしくて。ケガ人も出ている中で、それぞれ調子の良し悪しはありますし、今日みたいに誰かが代わりにやってくれるチームだと思っています。誰が活躍しても大喜びできるようなチームメートたちですね」
「全員が『チームのためにやる』と共通理解できている」
島根スサノオマジックに在籍していた2022-23シーズンにインタビューした際、谷口は「求められることの8割がディフェンス」と話しており、実際にそれをコートで体現していた。しかし群馬ではゾーンディフェンスを多用しチームで守ることを目指しているため、谷口のディフェンスの負担は明らかに減っている。
「島根の時は、1対1で守れるかどうかが重要でした。僕のところにヘルプが来ると他を全員でカバーしなきゃいけないので、結構マイナスなイメージもありました」。このように当時を振り返る谷口は、「群馬では僕とトレイ(・ジョーンズ)が同時起用されればスイッチディフェンスもできますし、ゾーンの時間帯も長いです。その分、オフェンスに気持ちをフォーカスできていて、3ポイントシュートの好調に繋がっています」と続けた。
チームは前日のゲーム1(87-80で勝利)に次いで勝利を重ね、6勝6敗の勝率5割に戻した。開幕から想定以上に苦しんだ理由として、谷口はチームの共通認識が足りていなかったと話した。「リズムが悪いのは全員が分かっていましたが、そこからどうリズムを良くするかをバラバラのやり方で打開しようとしていました」
ただ、チームは今節で大きく変わったと谷口は言う。「今は我慢しなければいけない、今は誰に攻めさせなければいけない、という状況判断が良くなってきていました。キックアウトで得点を取れますし、トレイがドライブに行く時は(他の選手がクリアアウトして)道を開けることもできます。全員が『チームのためにやる』と共通理解できているのが大きいです」
そうでなければ、この試合のような逆転劇は生まれなかった。谷口は「今日は我慢して最後の最後まで全力で戦った結果の勝利でした。ちょっとの成長かもしれないですけど、僕の中ではチームにとって大きな一歩だと感じています」と手応えを得ている。
「自分の気持ちを表現できる場所があるだけですごくうれしい」
ティーマンの復帰時期が不明確であるため、谷口にかかる期待は引き続き大きい。しかし、外国籍ビッグマンの欠場を日本人ビッグマンが穴埋めするオーソドックスなラインナップではなく、196cmのジョーンズを4番に据えたスモールラインナップも多用する群馬において、谷口の起用は限定的なものになる可能性もある。日本人ビッグマンの難しさについて、率直な気持ちを谷口に聞いた。
「慣れているという言い方をしたら良くないかもしれませんが、『日本人ビッグマンはこういう役割だよ』って理解しているつもりなので。誰かがケガをしたりチームがピンチの時に出て活躍できるようにしたいですし、まだまだ(年長の)竹内公輔さん(宇都宮ブレックス)と譲次さん(大阪エヴェッサ)が頑張っているので、僕もまだまだやりたい気持ちです。現状のままで良いとせず、貪欲にいろんな役割を担っていきたいですね」
昨シーズン、島根で多くの出場機会を勝ち取れずに、プレーヤーとしてもう一花咲かせるために群馬への移籍を決断した。今シーズンもここまで平均6分48秒と谷口の出場時間は決して長くないが、しっかりと役割を与えられ、それをまっとうしている。35歳のベテランはまだまだルーキー時代と同じようにプレーできる喜びを感じていると言う。
「特に今シーズンは長い・短いに関わらず、プレータイムをもらえているんでね。ちゃんと自分の気持ちを表現できる場所があるだけで僕はすごくうれしいから、ありがたいと思いながら満足せずしっかりと頑張らなければ、ですね」
「群馬に来て、毎日めちゃくちゃ楽しいんですよ。練習に行くのも、チームメートと顔合わせるのも」。満面の笑みでチームを語る谷口からは充実感があふれていた。プレー面では当然のこと、明るいキャラクターの谷口はチームにおいて大きな存在だ。ハードスケジュールは続くが、ここからチームメートとともに逆襲を見せてくれるだろう。
                                            

