ヤニス・アデトクンボ

マイルズ・ターナーにブーイング「辛かった」

バックスとペイサーズは新たなライバル関係を築きつつある。2年前の対戦でペイサーズ相手にキャリアハイとなる64得点を挙げたヤニス・アデトクンボは、記念に試合球を持ち帰ろうとした。ところがペイサーズがこれを拒否。キャリア初得点を挙げたルーキー、オスカー・シブエにボールをプレゼントしたかったという理由だったが、そうとは知らないアデトクンボはペイサーズのロッカールームに乗り込み、ボールを持ち帰った。

この時期からペイサーズが強くなり、勝敗の重要度が高い試合が続くようになる。昨シーズンのプレーオフで両者が対戦し、バックスの敗退が決まった時、タイリース・ハリバートンの父親がコートに入って敗者となったアデトクンボを煽る事件も起きた。

そんな因縁がある中で、今オフにバックスはマイルズ・ターナーをフリーエージェントで獲得した。ペイサーズ首脳陣は低い年俸のオファーしか出さず、他のクラブの状況を見て駆け引きするつもりだったが、バックスの『本気のオファー』を受けたターナーは即座に加入を決断。ペイサーズのやり方が拙かったのは間違いないが、ファン感情はそれを受け入れられない。

かくして現地11月3日、ターナーが移籍後初めてペイサーズのホーム、ゲインブリッジ・フィールドハウスに戻って来た。選手入場の際には入団からこれまで10年間のトリビュートビデオが流されたが、インディアナのファンはブーイングを浴びせた。拍手する観客もいたが、歓声よりもブーイングが大きく聞こえるのは仕方のないことだった。

ここで誰よりも気を吐いたのはアデトクンボだった。バックスが先行し、ペイサーズが追い上げて接戦となったこの試合、最初のプレーでコースト・トゥ・コーストでのダンクを叩き込んだ彼は、闘志をむき出しにしてプレーした。開始5分でダンクを決めてペイサーズにタイムアウトを取らせると、ブーイングを送るインディアナのファンに両手の親指を下に向けて応じた。

同点で迎えた残り15秒からのラストプレー、アデトクンボはアーロン・ネスミスをフィジカルで押し込んでからのターンアラウンドジャンパーをブザーとともに決めた。難易度の高いブザービーターを決めた直後、アデトクンボは人差し指を口に当てて敵地のブーイングを黙らせ、再び親指を下に向けてスタンドに向けてブーイングを送った。タナシス・アデトクンボがすぐ制止に入ったため数秒の出来事だったが、ひどく挑発的な仕草だった。

33得点13リバウンド5アシストを記録したアデトクンボは「この試合には勝たなきゃいけなかった」と語る。「両チームの状況は分かっているし、プレーオフで対戦する可能性のある相手だ。ただでさえ敵意に満ちた環境なのに、マイルズの移籍がそれに拍車をかけている。試合前、僕らはマイルズに『君のために勝つ』と誓い、それを実行した」

ターナーへのブーイングにアデトクンボは腹を立てており、相手チームのファンであっても、彼はその憤りを包み隠さず話した。「NBAの平均的な選手寿命が4年か5年のところ、マイルズはペイサーズに10年間尽くした。彼へのブーイングは納得できない。僕はペイサーズのマイルズと10年間戦い、インディアナのために血と汗と涙、身体を捧げてきたのを見てきた。バックスへのブーイングは理解できるよ。でもマイルズへのブーイングは、自分が彼の立場になったらどう思うかを考えてほしい。彼がどうコメントしたかは分からないけど、傷付いているだろう。これから家に帰った彼が『この10年間は何だったんだ』と感じるのは、あまりにも不公平じゃないか?」

かつてのホームで勝利を収めた後でも、ターナーに笑顔はなかった。「ビジター用のロッカールームには初めて来たけど、ひどいものだね。ネズミが走っていたし、シャワーは排水が悪くて水浸しだ。まあそれはいいとして、19歳から10年間を過ごしたこの場所で、憎しみとブーイングを向けられるのは辛かった」

「失望したし、怒りも沸き上がった。だって、僕は10年間をここに捧げてきたんだ。減俸を受け入れ、移籍の噂を乗り越え、常に正しい行いをしてきたつもりだ。それが報われないのは辛い。移籍が初めてだから、自分のトリビュートビデオを見るのも初めてだった。クラブが作ってくれた素敵な映像を楽しみたかったけど、上手くいかなかった」

ターナーにとって幸いだったのは、そんな状況でもプレーに集中して勝利をつかみ取ったこと。そしてファンはともかくペイサーズ内部の人たちは、彼の思うような出迎え方をしてくれたことだ。

「これまでと変わらずみんなと挨拶し、ロッカールームにも顔を出したよ。僕がルーキーだった頃からストレングスコーチもチームドクターも用具係も顔触れが変わらない稀有なチームだ。ファンがどう感じようと関係なく、僕を大切にしてくれる人に愛情を示したかった。チームメートも同じだ。みんな僕がどんな人間か分かっていて、愛情を示してくれた。だけど僕らは今やライバルだ。コートに入れば、その現実と向き合うしかない」