「デビュー戦で5ファウル退場」は『名誉の負傷』
胴回りが、その場にいるどのガードよりも太かった。「なぜ今だったのか」という答え(に近しいもの)を書ける情報は現状手元にないが、少なくとも佐藤涼成がプロのコートに立つ資格を十二分に有する者であることは、175cm86kgという数字と、その体格を見ただけで理解できた。
白鷗大を4年時途中で退学し、9月より広島ドラゴンフライズの一員としてプロキャリアをスタートさせた佐藤は、開幕戦の川崎ブレイブサンダース戦(ゲーム1)でプロとして初めてコートに立った。第1クォーター残り5分22秒。スコアは11-8。『お客さん』ではなく『チームの1ピース』としてのタイミングだ。
試合経験の少ないルーキー特有の、不安や遠慮、虚勢は見えない。一回り以上年の離れた川崎の篠山竜青にディフェンスで猛然と襲いかかってターンオーバーを誘い、鋭いペイントアタックから初得点を挙げ、ドウェイン・エバンスのアシストから3ポイントシュートを沈めた。
「緊張はしませんでした。リラックスして、自分ができることをやろうという気持ちでコートに入ったので、特にプレッシャーもなかったです」。18.05分出場13得点(3ポイントシュート3/5本)1アシスト0ターンオーバー5ファウルというスタッツで勝利に貢献した試合後、佐藤はデビュー戦を迎える前の心境をこう話した。
『5ファウル退場』に多少の新人らしさがにじみ出ているとも言えるが、常にファウルと紙一重のディフェンスを武器に戦ってきた佐藤にとっては『名誉の負傷』とも言える。佐藤自身も「(晴山)ケビンさんにちょっといじられましたが、チームのためにしっかり役割を遂行した上での5ファウルだと思っているので、今日の自分のプレーには納得しています」と言っていた。
朝山ヘッドコーチ、2試合目の先発起用は「当然」
ゲーム1の活躍が認められた佐藤は、翌日のゲーム2で先発起用された。ゲーム1の第4クォーターでも試した、173cmの伊藤達哉と175cmの佐藤を同時起用するラインナップの意図について、朝山正悟ヘッドコーチはこう話す。
「とにかくディフェンスから入りたかったからです。アウェーで連勝することは本当に難しいことで、昨シーズンもかなり苦しんだので、今日は自分たちがからディフェンスで仕掛けていくというメッセージをチーム全体に広げるという意味で、このようなラインナップにしました」
そして、佐藤をこれだけ早く先発起用することを開幕前に想定していたかという問いに対しては、柔和な笑みをたたえてうなずいた。
「彼がこれまで大学や学生選抜チーム、特別指定選手などで示してきた実力を踏まえて、即戦力であることはしっかりと理解していました。開幕2日目でスタートになったということに僕自身は驚きがないというか、当然だと思っています」
佐藤はゲーム1の後、「ディフェンス面でのアジャストが足りていませんでした」と話していたが、ゲーム2で修正できたところもあればできなかったところもあった。例えば第3クォーター残り2分40秒、ブレイクに持ち込もうとする篠山をファウルで止めて4つ目のファウルを宣告されたプレーは、「ファウルするな」という意味を込めたベンチからの「涼成!」という声を「ファウルせよ」ととらえて犯してしまったと苦笑した。
朝山ヘッドコーチは、時にポジションレスになるラインナップでポイントガードとしていかにプレーするかという点ではまだまだ慣れが必要だと話し、佐藤自身も次のように話している。
「もっと自分のコールに自信を持って、彼らに必要以上に頼らずやっていけば、もっと良いオフェンスの流れを作れたんじゃないかなというふうには思ってます。もちろん大学の時のようにずっと自分がボールを持っているわけにもいかないので、クリス(クリストファー・スミス)やドウェイン(エバンス)に任せるところは任せて、良いパスが来たらしっかり打ち切るっていうところも含めてしっかりやっていきたい。2人が疲れていると思ったらコフィ(コーバーン)や他の選手を生かそうと考えてやっています」
「ここぞで任せられるようなプレーヤーに」
スミスとエバンスというリーグ屈指の外国籍ハンドラーに加え、主にポストで大きな破壊力を発揮するコーバーン、内外自在な帰化枠スコアラーメイヨニックを揃えた今シーズンの広島において、日本人選手は「勝負を決めること」というより「やるべきことをやること」「チームの潤滑油になること」に自らの意識を集中している印象を受けた。佐藤の口ぶりにも近しいニュアンスを感じたが、あえて聞いてみた。
「いつかは自分が試合を支配したい、というイメージは持っていますか?」。佐藤は言った。
「場面によると思いますが、接戦や『ここでシュートがほしい』というところで任せられるようなプレーヤーにはなりたいです。それこそ富樫(勇樹)さんや並里(成)さんのようなプレーヤーになりたいと思っています」
高校の頃からプロ入りを強く思い描き、地道にトレーニングに励み、下級生の頃から大学界屈指のガードとして名を挙げた。今夏参加したU23日本代表のカナダ遠征で一足先にプロに進んだ同世代とプレーしたことで「大学とプロとでは求められるものが全然違う」と強く感じ、「もっとレベルアップしたい」という思いが止まらなくなったと話した。
週末には広島サンプラザホールでのホーム開幕戦が待っている。佐藤の家族も応援に駆けつける予定だという。
「まだサンプラザでプレーしたことはありませんが、今回のアウェーゲームも、この間のプレシーズンゲームもファンの皆さんの声はすごく届いていて、力になっています。ホームゲームで良いところを発揮して、自分のプレーで皆さんを沸かせられるように頑張りたいです」