文=小永吉陽子 写真=古後登志夫、鈴木栄一、野口岳彦、小永吉陽子

リオ五輪で日本を牽引したキャプテン吉田亜沙美は、現日本代表で最多となる5度のオリンピック予選(アジア、世界最終予選)を経験している選手。北京、ロンドン、そしてリオ。ようやくたどり着いた夢の舞台で吉田は、これまでオリンピックを目指してきた仲間のためにも――そんな思いで戦いに挑んだという。だからこそ、吉田のリオに懸ける思いは誰よりも強く、そして輝き、燃え尽きた。

バスケットボール人生を懸けたリオでの挑戦が終わり、しばらくの間はバスケを続ける目標を探していた吉田だったが、JX-ENEOSのヘッドコーチであるトム・ホーバスの言葉によって「バスケットボールを楽しむ」ことを思い出す。

日本代表の主力6選手の「リオ五輪、その後」。最終回のインタビューはキャプテンの吉田亜沙美。リオ五輪後に迎えたWリーグでの気持ちの変化と、再び日の丸をつけて戦闘態勢に入るまでを追う。

KEY WORD[1]Wリーグファイナル
「優勝してうれしい」「バスケットが楽しい」の気持ち

「今シーズン(2016-17)のJX-ENEOSは、トム(ホーバス)がヘッドコーチになったことで一層強くなったことを実感しています。ファイナルではスタートで出るメンバーだけでなく、ベンチから出てくるメンバーが流れを変えてくれたので、いろんな形のJXの良さが出せました」

「今回のファイナルで今までと一番違ったことは、自分たちのバスケットを楽しもうとする姿勢です。『これまで優勝会見では、優勝してホッとしたという言葉が最初に出てきたり、負けなくて良かったという気持ちが見えたけれど、そういう感情にはなってほしくない。優勝したらうれしいと感じてほしい』。トムは私たちにそう伝えてくれたんです」

「確かに『優勝してうれしい』とか『バスケットが楽しい』とか、そういう思いが年々減っていたんですね。私自身、そのことに気付けなかったし、トムに言われて、バスケットを楽しむことはとても大切だと気付くことができました」

「思えば、オリンピックは試合をしていてすごく楽しかった。トムもみんなが試合しているのを見て楽しかったと言ってくれました。『勝ってホッとしたというのと、勝ってうれしいという感情は違う』と気付くことができたんです」

「トムが目指す新しいディフェンスにチャレンジしていた時に、トムが今シーズン限りで辞めることを聞きました。日本代表のヘッドコーチになるのはトムのチャレンジなのだから、そこはみんなで受け入れて、『トムのために一緒に頑張ろう』という気持ちになりました。ここからさらにチームの結束が高まりましたね」

KEY WORD[2]女王ゆえのプレッシャー
「負けたらどうしよう」という苦しさはJXだからこそ

「ここ何年かは、オールジャパンやWリーグのファイナル前になると、負けたらどうしようと思うことがありました。ここ最近は毎回だったかな……。ファイナルに行くまでは心配してないけれど、ファイナルの前になると、そういう気持ちになるんです」

「勝ち続ける苦しさやしんどさは私たちにしか分からないこと。JXだからこそ、負けたらどうしようという気持ちになるんです。だからこれまでは、優勝してホッとしたという感情が出てきたんだと思います」

「でも、そんな苦しい思いをしてでも勝ち続けられるのは、やっぱり選手一人ひとりに気持ちの強さがあるから。やっぱりJXに入ったからには勝ち続けることが使命。自分たちのバスケがしたいという気持ちや、ここぞというところでの我慢強さや集中力は、他のチームには止められないくらい強いです」

「またJXが優勝か、という周りの言葉も耳に入ってきます。でもそんなの関係ない。何を言われても、自分たちは自分たちのバスケットがしたいだけ。その思いがスタートの5人だけでなく、若いメンバーにも芽生えてきて、みんなが同じ方向を向いているから、私たちは勝ち続けているのだと思います」

「そして、今シーズンは『負けたらどうしよう』ではなく『トムのバスケットで勝ちたい』という気持ちが強かった。その気持ちの変化が、オリンピックが終わって次の目標を探していた自分にとっては大きかったです」

KEY WORD[3]燃え尽きたリオ五輪
5度目の挑戦でつかんだオリンピック、リオで得た達成感

「リオに懸ける思いは人一倍ありました。やっぱり、これまで何度も予選で負けてきたから、オリンピックに懸ける思いが強かったんです」

「特に、ロンドン最終予選の時にあと一歩のところで出場を逃した悔しい思いは忘れません。バスケットを辞めたいと思うくらい悔しくてつらかった。負けた後にヘッドコーチの内海(知秀)さんが『選手である以上、前に進み続けてほしい』と言ってくれて、あの言葉で立ち上がることができたんです。だから、ここまで私を成長させてくれた内海さんと一緒にオリンピックに出たいとずっと思っていて、そこから4年かけて、内海さんとオリンピックを戦えたことは本当にうれしかった」

「ベスト8という結果は本当に悔しかったけど、今までのどの大会よりも、日本のバスケを出せたという達成感はありました」

KEY WORD[4]リオ五輪、その後
目標探しの中で吹っ切れた戦う意欲「トムのために」

「オリンピックが終わり、一番心配していたのが精神面でした。私にとってオリンピックは集大成だったので、それが終わった後は何を目標に戦うのか、バスケを続ける意味は何だろうか……そう思いながらWリーグを戦うことがとても怖かったです」

「もちろん、Wリーグとオールジャパンの2冠という目標はありますが、オリンピックを戦ったほどのモチベーションだったかといえば、絶対にそうではなくて。それまでのシーズンはオリンピックがあるからWリーグでもモチベーションを高く持ち続けられたけれど、オリンピックが終わった後、しばらくは目標が見つからなかったです」

「でも最後に『トムのために』というモチベーションに変わった時は、自分自身もトムと一緒に新しい挑戦の下で優勝したかったし、オリンピックと同じくらい楽しい気持ちで戦うことができました」

KEY WORD[5]日本代表としての覚悟
東京五輪に向けて、その一歩となるアジアカップで優勝する

「リオのオリンピックでやり切った思いがあったので、正直、次の日本代表をやるかどうかは迷っていました。リーグが終わった3月末にトムと個人面談をして、そこで自分が思っていることを全部話しました。また、トムも『私のことが必要』だと言ってくれて、これからの日本代表がどうあるべきかの考えを話してくれました」

「トムと話したのはとても大切な時間で、この話し合いで日本代表への思いが変わったといえば変わりました。今は日本代表を引っ張っていく覚悟が決まりましたね。合宿の初日にキャプテンに指名されましたが、もう覚悟はできていたので『はい、頑張ります』と言いました(笑)」

「日本代表の新しい目標は、東京オリンピックでメダルを取ること。7月のアジアカップはその一歩になるので、今はメンバーに選ばれて、再びアジアで優勝することだけを考えています。東京オリンピックは最終的な夢になりますが、まずはケガなく現役でいることを目標に、3年後にメダルを獲ることを見据えて、1年1年やっていきます」

【リオ五輪、その後】
渡嘉敷来夢(JX-ENEOS)
すべては東京五輪のために「新しい自分に会うことがモチベーション」
栗原三佳(トヨタ自動車)
度重なるケガの試練と向き合いながら『自分の仕事』をやり切ったシーズン
髙田真希(デンソー)
『人生初』キャプテンの決意は「五輪の経験を伝えられるリーダーになる!」
本川紗奈生(シャンソン化粧品)
「自分がチームを背負う!」もがきながらもリーダーへと成長中
大﨑佑圭(JX-ENEOS)
『新婚のセンター』は自然体で「1年1年レベルアップ」に取り組む
吉田亜沙美(JX-ENEOS)
完全燃焼したリオ五輪を後に、アジア制覇に向けて再び走り出す!

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