文=小永吉陽子 写真=WJBL、小永吉陽子、野口岳彦

日本代表の切り込み隊長である本川紗奈生。この2年間、日本代表のシューティングガードとしてスタメンとなり、走るバスケットの中心として躍動している。足底筋膜炎と付き合いながらのオリンピック出場だったが、うまく調整してピークを持って行き、壁を一つ乗り越えることができた。だが自身のプレーの出来には「手応えはあったが、まだまだ」という感想を抱いて帰国し、次なる目標へと走り出している。

オリンピック後の本川はWリーグでは3年連続ベスト5を受賞し、シャンソン化粧品のエースとして年々進化を遂げている。しかし、若いチームの中にあっては背負うものが大きく、もがきながら『チームリーダー』へと成長している段階。これまで以上に苦しいシーズンの中でたどりついた『4強』への道を振り返りながら、チームリーダーへと成長中の本川紗奈生を5つのキーワードで追った。

KEYWORD[1]Wリーグセミファイナル
若いチームが苦しみながらチャレンジした2年連続の4強

「昨シーズン(2015-16)と同じベスト4ですが、今シーズンは勝っても内容が悪かったりして、すごく苦しいシーズンでした。私たちのチームは、持っている力はあるけれど、その力が出し切れない選手が多いです。今シーズンはそうした状態でずっと、もがいてもがいて、自分たちのバスケを見付けられないままにやっていましたが、プレーオフになってこれで最後となるとようやく強さを出せるようになり、セミファイナルまで来ることができました」

「昨シーズンは、富士通を相手にあと一歩のところで決勝進出を逃して悔しい思いをしました。ファイナルは経験したことがない未知の世界なので本当に行きたいところでしたが、今シーズンもセミファイナルでトヨタ自動車に1勝2敗で敗れました。トヨタは勝てない相手ではないけれど、やっぱりまだチーム力が足りませんでした」

「なかなか力が出せなくてすごく苦しいシーズンでしたが、『この苦しさを味わったことは来シーズンにつながる』と終わってみて感じました。自分たちにはこういう悔しい経験が必要だったのだと、今は思えます」

KEYWORD[2]若きチームリーダー
苦しみ、もがきながらも目指したチームリーダーの役割

「今シーズン苦しかったのは、個人的にはチームを引っ張れなくて空回りしてしまったからです。去年の成績を超えたい、去年以上のものを見せたいと、勝手に背負ってずいぶんと無理なプレーをしてしまいました。昨シーズンはチームが成長していく中でフレッシュな気持ちでやれたのに、今シーズンは負けちゃいけない、負けちゃいけないというプレッシャーを背負ったまま戦っていたような気がします」

「そうなってしまった原因は、オリンピックが終わって、気持ちの整理ができないままにシーズンに入ってしまったから。オリンピック後すぐにチームに合流し、韓国遠征に行き、遅れた分を取り戻すかのように練習しました。オリンピック後に少し休んで一呼吸置き、『次も頑張るぞ』というメンタルでシーズンに入れなかったんです」

「自分が自分がと背負ってしまい、周りが見えないこともあったけど、それに対応できなかったのが今の自分だし、こうした経験を乗り越えられたら、大変な時にやっていける力がつくのだと感じました。来シーズンはもう少し心に余裕を持ってチームを引っ張ることが課題です」

KEYWORD[3]オリンピックでの手応え
「かけがえのない経験ができたけど、自分はまだまだ」

「オリンピックはではドライブや外のシュートは通用したので、手応えを感じることはできました。12人しか立てない素晴らしい舞台に立ち、かけがえのない経験ができたと思います。でも、自分の出来としてはまだまだでした。全然まだまだ」

「良かったことは、踵のケガを調整しながらもオリンピックで戦えたこと。めげそうになったこともあったけど、そこは調整の持って行き方ができたと思います」

「良かったことも、まだまだだったことも全部含めて、オリンピック期間中は本当にメンタルがキツかったです。『私はこんなにキツいけれど、みんなは楽しんでいるんだろうか』とか、いろんなことを感じながらやっていました。すべてが初めての経験だったのでそう思ったのかもしれません。オリンピックはすごい舞台でしたが、そこに立つまでが本当に長くて大変なところ。オリンピックが終わった後はドッと疲れが出ました。アジア予選から、海外遠征、ケガもあって、本当に本当に長かったから……」

KEYWORD[4]毎年のテーマ
6年目のテーマは五輪、ファイナル、ケガの調整への挑戦

「毎年、自分の中でテーマを決めてシーズンに臨んでいます。シャンソンに入団した1年目は『怖い物知らずでチャレンジ』、2年目は『成長する』、3年目は『責任感』、4年目は『自覚』、5年目は『4年間で土台を作ったものをレベルアップさせる』です。毎年、目標としているテーマに到達するためには、どんな練習をしたらいいのかを考えながら取り組んでいます」

「オリンピックを迎えた6年目のテーマは、昨年から引き続きレベルアップさせることなので『挑戦』でした。オリンピック本番に向けてレベルアップへの挑戦、オリンピックで自分がどこまでできるかの挑戦、シャンソンでもファイナルに向けての挑戦。また踵のケガもあったので、ケガから調整してオリンピックの舞台に立つことも挑戦でした」

「悪い時もあったけれど、テーマに向かって挑戦し続けることはできました。7年目の今年は、少し気持ちを切り替えてリフレッシュして、また新たなテーマを作って臨みます」

KEYWORD[5]足のケガと日本代表
日本代表はどうしても譲れない『自分のプライド』

「以前は左足の踵を痛めていましたが、今シーズンは右足の足底筋膜炎踵になってしまった中でプレーしていました。両膝にも痛みがあります。でも痛いと言ったらキリがない。みんなどこかしら痛みを抱えてプレーしていると思います」

「シーズンが終わって検査をした結果、右足踵の腱は切れかかっていたけど、切れてはいなくてプレーはやれる状態。しっかり治すために代表活動を休む選択もありますが、自分にとって日本代表はどうしても譲れない場所。日本代表は自分のプライドなんです。3年後のオリンピックが一番大事と分かった上で、そこに続く国際大会を戦いたい。だから、このオフは身体を休める日を作ってコンディションに気を遣いました。いつもはオフでも詰め詰めに動いていたんですけど、積極的に休養を取ったのは初めてです」

「また、代表の合宿では佐藤(晃一)さんを始めパフォーマンスコーチの方に身体全体をチェックしてもらい、全部を改造しているところです。今はトレーニングの成果が出てきて、身体のバランスが良くなってきて、踵の痛みが減ってきているんです。すごくうれしい。このまま身体のバランスを整えるトレーニングを続けて、代表活動を頑張りたいです」