文=小永吉陽子 写真=野口岳彦、古後登志夫

Wリーグと日本代表、そしてWNBAとフルシーズン活動している日本のスーパーエース渡嘉敷来夢。リオ五輪では平均36.1分出場、17得点、6.3リバウンドをマークした。オリンピック後、WNBAのシアトルストームでプレータイムが格段に増えたのは、リオでの活躍をヘッドコーチが認めたからだ。そして今シーズンもWリーグでレギュラーシーズンMVPを獲得し、日本のエースの座を揺るぎないものにしている。

このハードな1年を、渡嘉敷はケガなく乗り切った。アメリカから帰国した後のWリーグでは、以前に手術をした足首の様子を見ながらのプレーとなったが、しっかりと身体を作り込み、心身のコンディションを保ちながら戦うことができた。

そうしたシーズンを送る中で、渡嘉敷はアメリカと日本で今後どう活動していくべきかを考え始めている。それは3年後の東京五輪に向けて決意を新たにしたからだ。リオから東京に向けて、そして自身の成長について、5つのキーワードで語ってもらった。

KEYWORD[1]Wリーグファイナル
体調不良に襲われたファイナル、エースはどう戦ったか

「今シーズンのファイナルはこれまでやってきた7年間で一番しんどいファイナルでした。試合内容より、自分自身がしんどかったです。3月上旬から体調を崩し、チームに迷惑をかけながらのファイナルになってしまい、申し訳ない気持ちがありました。体調不良については自己管理ができなかった自分のせいなので、それも実力だと思い、もっと精進します」

「でも、悪いながらも徐々に体調を整えて戦うことはできました。『40分いけます』とトム(ホーバスHC)には伝えていましたし、ディフェンスとリバウンドでは貢献できました。自分が出ない時も若い選手が活躍してくれたので、ウチのチームは強いということを証明できたファイナルでしたね」

KEYWORD[2]JX-ENEOSの強さ
シーズン無敗で9連覇、チームの強さを渡嘉敷はこう分析する

「ウチのチーム、強いですね。今まで以上にそう感じたし、絶対優勝できると思っていたし、今までで一番自信があったシーズンでした。その理由としては、トムの下で優勝するだけの練習をチーム全員でやって、それが確かな自信になったことです。トムの練習は本当にキツいけど、あれだけキツいことをしても、勝つことでまた練習を頑張れるんですよね」

「特にディフェンス練習が厳しかった。ウチのディフェンスは一人ひとりがルールをしっかり守り、ルールを守れなかったら試合に使われないことをみんなが自覚した上でやっています。オフェンスがどんなに良くても、ディフェンスが悪ければ交代させられてしまいます。逆に言えば、ディフェンスが良ければ試合に出られる。それくらい、トムのバスケットはディフェンスを徹底します」

「周りからは『JXは強い』と言われます。今年は『強すぎる』とも言われました。でも、自分たちからしたら『勝つための練習をしているからだよ』と胸を張って言いたいですね。日本代表を揃えているから勝てるのではなく、練習して育っているから日本代表としてやれているんです。現状に誰も満足していないから練習をして伸びる。それを伝えたいです」

KEYWORD[3]WNBA3年目の挑戦
今のモチベーションはアメリカでプレーの幅を広げること

「今はWNBAのことに集中しています。もちろん日本代表はトムがヘッドコーチ1年目なので頑張りたいし、アジアにオーストラリアとニュージーランドが入ってくるので、そんな強敵がいる中でも3連覇を目指したい。そこは変わらない目標です。でもまずは、目の前にあるWNBA3年目のチャレンジとして、シアトルストームで成長したいです」

「やっぱり、自分に足りないのは外から攻めるプレー。そこは日本ではやれないので、アメリカで身に着けるしかないと思っています。アメリカで外のプレーをやると、新しい自分に会えた気がするので、そこを追求したくなるんです」

「昨シーズンは試合に出られないことも多く、『出してくれれば絶対にやれるのに』と悔しい思いもしたけど、それも経験だと思ってやっていました。オリンピック後に出場時間が増えてチームに貢献できた時は、『それみろ、やってやったぞ!』と言いたかったですね。絶対に見返してやると思いながらやっていましたから」

「昨シーズンは外のシュートがだいぶ入るようになったし、外のプレーに対して積極的になれました。そういう気持ちでプレーできて、今までと違う自分に会えるアメリカが自分は好きなんです。3年目のWNBAで新しい自分に会えることが今のモチベーションです」

KEYWORD[4]Wリーグ、日本代表、WNBA
WNBAに挑戦している渡嘉敷が3つの舞台で活動する意味

「日本での目標を聞かれたら『リーグとオールジャパンで優勝すること』以外にないし、自分にとってそれはスタートラインなんです。日本で大好きなチームメートと優勝するうれしさは、もちろんあります」

「でも個人的な成長のことで言うと、このまま日本にいて中、中、中とインサイドのプレーをしていていいのかという葛藤があるのは事実です。だから日本ではどんなプレーをしても満足することができないんです。ディフェンスに何人囲まれようとも得点を取ることは絶対だし、ファイナルでも何本かありましたが、良いところでジャンプシュートを決めて、そういう外からのプレーがあることをもっと見せていきたい。それに来シーズンは10連覇という目標があります。『10』は自分の背番号で好きな数字だし、そこは絶対に狙いますよ」

「そんな中で感謝しなければならないのは、日本でもアメリカでも日本代表でも、そのトップでプレーできる人は、日本では自分しかいないということ。自分はWリーグ、WNBA、日本代表でやりたい人たちの代表だと思っているので、それぞれの舞台で頑張ることが自分の宿命だと思って成長していきたいです」

KEYWORD[5]2020東京オリンピックへ!
日本のエースはこの3年間にバスケ人生のすべてを懸ける

「もっとうまくなりたい、強くなりたい――。その思いはどんどん強くなっています。オリンピックが終わってからは特に。リオでアメリカに負けた後、2日間くらいは喪失感があったけど、その後は『もっとやってやろう』と思えたので。自分は今、東京しか見ていません」

「リオで痛感したのは、日本のバスケを40分間やらなきゃ勝てないということ。オーストラリアには35分対抗できたけど最後の5分がダメで、アメリカには20分しか通用しなかった。本当にしんどい時にシュートの精度を上げられるかが課題です」

「この3年間にバスケット人生を懸けたいです。あと3年でどう成長していくかがすごく大事。2020年に自分の国でオリンピックを見てもらえることは、それこそバスケットボールが広がるチャンスですよね。メダルを取るためには個々がもっとレベルアップしないといけない。だから自分は今年もアメリカに行って、新しい自分に会ってきます」