
ドンチッチ「こんなことが起きていいのだろうか?」
スロベニアは持てる力のすべてを発揮したが、ドイツに勝つことはできなかった。序盤は互角の展開だったが、第1クォーター残り3分からスロベニアが15-4のランを決めて主導権を握り、そのまま第3クォーターまでリードを保つ。しかし、第4クォーターに入ると失速。残り2分には89-92と1ポゼッション差に迫ったものの、最終スコア99-91でドイツが勝利した。
スロベニアは準々決勝のイタリア戦で第1クォーターを29-11と圧倒したのと同様に、ティップオフから攻守にエネルギー全開だった。対するドイツは試合間隔が空いたのが逆に災いしたのか、集中できていないままスロベニアに圧倒されることに。特にプレーメーカーでありチームの精神的支柱でもあるデニス・シュルーダーは、20得点7アシストとスタッツは残したもののフィールドゴール20本中6本成功と精度を欠き、ディフェンスでもいつもの強度を出せなかった。
しかし、ドイツは他の選手が逆境に屈しないメンタリティを発揮した一方で、スロベニアはリードしているにもかかわらず不利なジャッジがあるたびに感情的になり、自滅へと向かっていく。ルカ・ドンチッチは33分のプレーで39得点10リバウンド7アシストと、エースとしての働きではシュルーダーを圧倒したのだが、シュルーダー以上にフラストレーションを爆発させていた。そして、スロベニアの選手たちはチームリーダーの悪癖に引っ張られ、プレーではなくジャッジに意識を向けていく。
試合開始2分すぎ、ドンチッチは相手のファウルを誘いつつ3ポイントシュートを放った。これに笛が鳴らないと、目の前にいる審判に何かを言ってテクニカルファウルを受けた。このプレーをきっかけに、ドンチッチはずっと審判と戦い続けた。
さらに決定的なシーンは後半開始2分すぎに起きた。ピックを使ってディフェンスを引き剥がしてアタックするドンチッチが、カバーに入ったシュルーダーと接触。これがオフェンスファウルと判定されると、ドンチッチは怒りを爆発させる。ヘッドコーチのアレクサンダー・セクリッチとともに映像を確認するよう審判に迫るも、これが受け入れられずにイライラはさらに募った。

ドンチッチは39得点10リバウンド7アシストを記録
試合後のドンチッチは「ジャッジにはあまり触れたくない」としつつも、不満を抑えられなかった。「開始わずか2分でテクニカルファウルを食らった。そして後半開始直後に個人4つ目のファウルだ。準決勝でこんなことが起きていいのだろうか? 正直、審判が何を考えているのか分からない」
しかし、これは彼の失敗だ。判定に納得がいかなくても、切り替えて次のプレーに集中しなければならない。最初のテクニカルファウルの場面では、ドンチッチへのファウルはコールされなかったが、味方がオフェンスリバウンドを取ってチャンスは続いていた。彼は再びボールを要求し、新たなチャンスを作るべきだった。4つ目のファウルの場面でも、彼が怒れば怒るほどドイツの思うつぼだ。シュルーダーはフロアに倒れたまま、ドンチッチが我を忘れる様子を見て「してやったり」の笑みを浮かべていた。
この試合で勝利に値するプレーをしていたのはスロベニアだったとしても、勝利に値する立ち居振る舞いはできていなかった。それがドンチッチとスロベニアの敗因だ。それを受け入れられない限り、彼は同じような負けをこの先も繰り返す。
しかし、良くも悪くもドンチッチの影響は大きすぎる。指揮官セクリッチは試合後の会見で「ルカという偉大な選手が不当な扱いをされるのはひどい。見ていてつらい」と語り、あくまでドンチッチ擁護の立場に立った。彼は代表コーチとして、ドンチッチと対立するわけにはいかない。
ドンチッチにその道理を説き、理解させられる者はいるのだろうか? あるいは彼は悔しい敗戦から学び、自らを変えることができるだろうか? 誰も止められない才能であると同時に、誰も止められない感情の激しさを抱えるドンチッチ。その未来は彼自身の精神的な成長にかかっている。