沖縄ならではの難しさを乗り越え、屈指の人気クラブに
Bリーグでも屈指の人気チームである琉球ゴールデンキングスは、沖縄というスモールマーケットを本拠地としながらホームゲームは全試合満員御礼とリーグを先導している。「琉球の試合の盛り上がり方はすごい」という評価はバスケ界を超え、スポーツビジネスの世界では広く知られている。
ここまでの盛り上がりの理由としてよく挙げられるのは、「沖縄では米軍基地がある影響で、以前にNBAをテレビで見ることができた」とか「競技人口が多いバスケどころだから」といったもの。ただ、それだけで片付けるのではあまりに短絡的だ。1990年代中期以降、マイケル・ジョーダンに牽引されてNBA人気は日本全国で盛り上がった。沖縄以外でもNBAをテレビで見る人は相当数いたのだ。それにバスケどころは沖縄に限らない。
むしろ、沖縄ならではの難しさもあった。例えば沖縄では琉球が誕生する前、プロ野球やJリーグのチームが地元になく、それゆえにスポーツにお金を払って定期的に観戦するという『観戦文化』が根付いていないところからのスタートを強いられた。
そんなマイナス面も乗り越え、今の人気を築くまでにどんな活動をしてきたのか。そして注目を集めている1万人規模の新アリーナ計画について、琉球のキーマンに話を聞いた。かつてNBAのニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)のフロントとして長年アメリカプロスポーツ界の最前線で活躍し、琉球にはチーム創設時からかかわっている取締役、安永淳一だ。
過去の日本のバスケ界はお客さんを選んでいた
──琉球はbjリーグ時代から集客力はありましたが、招待券を数多く配ったり、大幅な割引を実施しているわけでもないのに、今シーズンも約3300人の平均観客を集めています。今回はその秘訣を聞きたいのですが、まずBリーグが誕生した影響をどう考えていますか?
開幕前にプレシーズンゲームを1試合やり(vsジョージ・ワシントン大)、それ以来ずっとホームゲームは多くのお客さんに来ていただいています。Bリーグが誕生したことで、これまでキングスへの距離があった人たちにも近付いていると感じています。東京で行われたリーグ開幕戦、沖縄県内でのテレビ視聴率はBSと合わせると25%以上と聞いています。ああいうマスの動きは大事で、それもあって集客を高いレベルで続けられたところはあります。
──沖縄にはバスケ文化が根付いていて、それでキングスに集客力があると言われますが、実際はどう感じていますか?
沖縄はバスケどころとよく言われますが、それは全国にあります。例えば神奈川や愛知には様々なクラブが存在しています。高校レベルでは福岡や京都なども強くて全国屈指ですし、そこにもクラブはあり、沖縄と同じようにバスケが盛んな地です。
もちろん沖縄は競技者が多く、アメリカの影響もあります。ですが、それだけに頼ってしまうと過去のバスケットボールからの成長はありません。琉球ゴールデンキングスはまずはいろいろな人に見てもらうことを第一に、お客さんを選ばないチームであろうとしてきました。
過去の日本のバスケ界はお客さんを選んでいたのではないでしょうか。バスケをやっていた人、バスケにかかわっている人、バスケにかかわっている会社にかかわっている人……そんな人たちだけのものだった時期があったと思います。それでは、バスケをやったことのない人には遠い存在ですよね。
──つまり、バスケに縁のない人に対してアプローチしてきたということですね。
そうですね。キングスはお客さんを選びません。僕たちがテーマにしているのは家族で来てもらうこと。親子、おじいさん、おばあちゃんと三世代、手をつないで見に来てもらう。そうやって家族で見に来ていた思い出が増えていくと、その子が大人になった時に子供、孫を連れて来てくれる。それがスポーツを観戦する文化、チームを応援する文化だと思います。そうなると流行り廃りではなく、自分たちのものなんです。
勝てばお客さんが集まると思ったら大間違いです
──掲げるテーマは理解しました。では、家族に会場まで足を運んでもらうために、具体的にはどんなことをしてきたんですか?
チケットを買ってくださるお客さんに基準を合わせます。初めて見に来てくれた人が「楽しかった」、「また行ってみたい」と思ってもらえるものを提供する。それをコート内だけの話にしないことです。「試合が面白かった」とか「選手がカッコいい」で片付けてしまうと、付加価値が乗っていないわけです。選手はよりカッコよく見せるべきだし、プレーの迫力は増幅させてお客さんに伝えないといけない。そのためには演出など様々なものが絡むし、それなしで試合を見せてはいけないと考えています。
そうすることで「インパクトのあるものを見た」と感じてもらえます。その人たちが話題にしてくれれば、バスケットボールに詳しくない人がチームに興味を持つきっかけになり、観戦の一歩目を踏み出すことができます。あとは毎年、何かを少しずつ成長させていくことを心掛けていますね。同じものを2年連続で見せないつもりで試合会場を作っています。
──過去を振り返って、観客動員が大きく伸びるきっかけは何かありましたか?
ブレイクスルーのポイントは特にありません。勝てばお客さんが集まると思ったら大間違いです。国民的な人気があるわけではないリーグで優勝しても、さほどのインパクトはありません。bjリーグ時代もお客さんは集まっていましたが、運動会シーズンや旧盆と重なると出足は鈍りました。それを少しでも克服しようと、お客さんが楽しみやすい時間に試合開始を設定するといった工夫をしてきました。
チケットを握りしめてワクワクする、そのプロセスも楽しめるよう意識しています。それはチーム創設1年目からできていたわけではなく、お客さんに楽しんでもらえるものを作ろうという中での積み上げが毎年少しずつレベルアップしてきた結果です。今年でチーム10年目ですが、「10年でここまで来たか」というのが実感です。
『Bの現在地』を探る
vol.1 比留木謙司(富山グラウジーズ)「お客さんが満足して帰れば僕らの仕事は大成功」
vol.2 安永淳一(琉球ゴールデンキングス)「お客さんを選ばないチームであろうとしてきました」
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