マリーク・ビーズリー

契約最終年を破棄され、綱渡りの資金繰りが破綻?

現地6月29日、マリーク・ビーズリーがスポーツベッティングへの違法な関与を疑われ、FBIの捜査を受けていることが報じられた。この容疑はビーズリーがバックスに所属した2023-24シーズンの試合で、彼の個人スタッツへの賭けで『異常なベット』が検知されたことで浮上したものだ。

彼の弁護士を務めるスティーブ・ヘイニーは「捜査を受けているが起訴されたわけではない。推定無罪の原則が適用されるべきだ」とコメントしたが、フリーエージェントとの交渉解禁直前にこの報道が出たことで、ピストンズはビーズリーにオファーしようとしていた3年4200万ドル(約63億円)の契約を取り下げたという。

ビーズリーは2016年のNBAドラフト1巡目19位指名を受け、ナゲッツで4年780万ドル(約12億円)のルーキー契約を、ティンバーウルブズでは4年6000万ドル(約90億円)の延長契約を得ている。しかし、ウルブズの2年目を終えたところでルディ・ゴベアのトレードの一部としてジャズに譲渡され、契約3年目となる2022-23シーズンはジャズとレイカーズでプレー。ここで目立った結果を残せず、レイカーズから契約4年目のチームオプションを破棄された。

2023年オフ、フリーエージェントとなった彼はバックスとベテラン最低保証額の270万ドル(約4億円)の契約を結ぶ。前シーズンには1540万ドル(約23億円)の年俸を受け取っていた彼にとって、懐事情が急に厳しくなったのは間違いない。

彼への捜査はまだ続いているが、スポーツベッティングへの違法な関与が疑われたことを発端に、様々なお金のトラブルが報道によって明らかになった。今年4月、彼はかつて契約していたエージェント会社から提訴されている。エージェントはビーズリーの肖像権を管理してビジネスを展開するために彼と契約を結び、今後得られる収入の一部である65万ドル(約1億円)を前払いした。その後にビーズリーが契約を破棄したのだが、前払い金が返されなかったことで提訴された。

ビーズリーは現地4月21日、ニューヨークで滞在していたホテルで訴状を受け取った。その日の夜、彼はマディソン・スクエア・ガーデンでニックスとのプレーオフ第2戦を戦い、9得点を挙げてピストンズの勝利に貢献している。

ピストンズはビーズリーへの新契約オファーを保留

彼の金銭トラブルはそれだけではない。彼はプロスポーツ選手への融資を専門にする企業から580万ドル(約8億7000万円)を借り、その返済遅延で提訴されている。前述のヘイニー弁護士は「プロ選手がこういった企業から年俸の前払いという形で融資を受けることはよくあることだ。しかし、その多くは法外な金利と手数料を取り、高利貸しに等しい行為を行っている」と説明し、こう続けている。

「私は弁護士だから彼の財務管理や資金の使い道には一切関与していないが、マリークの弁護士を長く務めている間、彼を取り巻く多くの人が現れては去っていった。彼には良いビジネスパートナー、マネジメントが必要だ」

他にもミネソタでは歯科医、ミルウォーキーでは美容院、ピストンズでは高級マンションのオーナーから、支払いが滞っているとして提訴されていた。使い切れないほどの高給取りであるNBA選手が(セレブ向けの価格帯ではあっても)歯科医や美容院の支払いができないとは想像しづらいが、ビーズリーにはそれが起こっている。4年6000万ドルの契約最終年を破棄されてベテラン最低保証額となったバックスでの2023-24シーズンに、彼の綱渡りの資金繰りは破綻してしまったようだ。

昨シーズンのビーズリーはピストンズでレギュラーシーズン82試合とプレーオフ6試合の全試合出場を果たし、レギュラーシーズンでの3ポイントシュート成功数300本超えはステフィン・カリーとアンソニー・エドワーズと彼の3人だけ。シックスマン賞の投票では2位に入った。

ピストンズのトラジャン・ラングドン球団社長は「マリークと彼のエージェントと連絡が取れたのは、フリーエージェントとの交渉解禁の前日だった。彼には残留してもらうつもりだったので残念だが、方針転換が必要だった」と語る。現状、ピストンズはロスター枠を空けて捜査の進捗を待っているが、ビーズリーと契約できない可能性も踏まえてキャリス・ルバートとダンカン・ロビンソンを獲得している。

ビーズリーはまだ28歳で、これからキャリアの全盛期を迎えるところ。捜査が終わって疑いが晴れても、好条件のオファーを得られるとは限らない。ヘイニー弁護士は「この手のトラブルを抱えている選手は彼だけではない」と語った。NBAはきらびやかな舞台だが、ビーズリーの一件はその舞台裏に潜む課題を浮き彫りにしている。