満面に笑みを浮かべて「期待される状況が好きだ」
昨年末、キングスのフロントは大きな失敗を犯した。開幕から2カ月で13勝18敗とチームが波に乗れない状況でマイク・ブラウンを解任。その決め手となったのは、負けた試合の記者会見で、ディアロン・フォックスのミスをブラウンが手厳しく批判したことだ。生え抜きのエースとヘッドコーチの関係が破綻していると見たフロントはブラウン解任を決め、ショック療法でチームを目覚めさせようとした。だが、ブラウンを支持していたフォックスはこの解任劇でキングスに愛想を尽かし、スパーズへと移籍していった。
ブラウンは感情をストレートに表に出す男だ。ただし、それがどんな効果をもたらすかを計算した立ち居振る舞いを身に着けている。キングスでの彼は会見に限らず、フィルムセッションでも映像という『証拠』を提示して選手を批判した。気分の良いものではないだろうが、それがチームの攻守を向上させると分かれば、選手は受け入れるものだ。
そのブラウンがニックスのヘッドコーチに就任した。トム・シボドーを解任したニックスはその後任として、シボドーに心酔していた選手たちを束ねられる統率力を持つコーチを探し、ブラウンを選んだ。
就任会見に臨んだブラウンは「すべては人間関係なんだ」と話す。「互いに信頼できるようになれば、前に進むために必要なことは何でも話せるようになる。私は選手たちに本音で話すつもりだし、選手たちも私に本音で語ってほしい」
名門ニックスのヘッドコーチは重圧の掛かる仕事だが、彼は『無職』が短期間で終わった喜びを隠そうとしなかった。満面に笑みを浮かべて「私ほど大きな期待を抱いている者はいない。ニックスであり、マディソン・スクエア・ガーデンだ。期待される状況が好きだし、それに伴うプレッシャーは受け入れている」と語る。
「やるべきことは多いが、始める準備はできている」
キングスでの解任劇については「もう過去のこと」と触れなかったが、それでも「過去のすべての出来事が私を成長させてくれた」と語る。ブラウンはシボドーより12歳年下の55歳とまだ若いものの、ナゲッツのビデオコーディネーターとスカウトとして働き始めた1992年から、NBAで多くの経験を積んできた。
「ティム・ダンカンからレブロン・ジェームズ、ステフ(ステフィン・カリー)、KD(ケビン・デュラント)、ドレイモンド・グリーン、ディアロン・フォックスまで、多くの選手から様々なことを学んだ。全員が何らかの形で成長に関与してくれたおかげで、私はここにいる。バスケはあらゆる面で変化しており、私も変化しなければ取り残されてしまう。どこにいようとも学び、成長しなければいけない。そういう意味ではキングスにも感謝している」
そうした学びと成長を積み重ねたことで、彼は名門ニックスの指揮を任されることになった。「我々の目標は勝利の文化を築くことだ。そのために何が必要かは分かっている。ハードワークとコミットメント、目の前の瞬間に集中すること。当たり前のことを言っていると思うかもしれないが、一つも飛ばすことのできないステップだ」とブラウンは語る。
「私は3つのチームでNBAファイナルに6回進出している。そのすべてに共通していたのは、お互いのために自己犠牲を厭わず、チームとして強いまとまりがあり、競争心を持つとともに自分たちの可能性を信じていた。一回の練習、一回のシュートアラウンドを大切にする。やるべきことは多いが、始める準備はできている」
チームとしての始動はまだしばらく先になるが、ブラウンは『人間関係の構築』という仕事にすぐ取り掛かるつもりだ。「すべての選手に連絡を取り、コミュニケーションを確立したい」と語るその表情は、これから始まる挑戦への期待に満ちていた。