柔軟かつ大胆な変化を決断できるコーチ
ニックスはプレーオフのカンファレンスファイナルでペイサーズに敗れた3日後、トム・シボドーの解任を発表した。長らく低迷していたニューヨークの人気チームを、タフに粘り強い『戦う集団』へと変えて優勝争いのできるレベルへと引き上げたシボドーの解任に際して、レオン・ローズ球団社長は「優勝を実現するために必要なことをする」とコメントした。その時点で後任は未定で、ロケッツのイメイ・ユドカなど他のチームで指揮を執るヘッドコーチに面談を求めて断られるなどして、後任探しは迷走した。
しかし、今オフはコーチの移動が少なく、ニックスは焦らず多くの候補者と面談し、チームを託すに足る指揮官を探した。約1カ月をかけて見いだした回答が、昨シーズン途中までキングスの指揮を執ったマイク・ブラウンだ。
ブラウンはシボドーより12歳年下の55歳。それでも1992年にナゲッツのビデオコーディネーターとスカウトとして働き始め、それからチームと立場を変えながらNBAで多くの経験を積んできた。スパーズでグレッグ・ポポビッチの、ペイサーズでリック・カーライルのアシスタントを務め、2005年にキャバリアーズで初のヘッドコーチに就任。若きレブロン・ジェームズを擁するチームでNBAファイナル進出を果たしている。
レイカーズでの短期間の指揮を経て、2016年からはスティーブ・カーのアシスタントとしてウォリアーズが『王朝』を作る時期を支え、2022年にキングスのヘッドコーチに。その初年度にウォリアーズ流のペース&スペースのバスケでキングスを17年ぶりのプレーオフへと導いた。シボドーほどの実績はないにせよ、多くのチームのカルチャーを知り、多くのスター選手たちと時間を過ごしてきた経験がブラウンにはある。
一方で懸念されるのは、志向するバスケがシボドーとは真逆なことだ。シボドーはジェイレン・ブランソンの手にボールを託すハーフコートバスケで、彼がチームメートそれぞれの個人能力を活用するバスケをやってきた。しかしキングスでのブラウンは、ウォリアーズのスピーディーな展開と3ポイントシュートを軸にオフェンスを組み立ててきた。
ただ、この2つのスタイルを共存させて使い分けることができれば、ニックスにはメリットしかない。ブラウンは自分のやり方に固執しないタイプで、これまで経験してきた様々なスタイルの良いところだけを抜き出して使う柔軟性がある。キングスでも機能していないと判断すれば思い切ったローテーション変更を行ってきた。ここはシボドーにはなかった部分であり、新体制への移行で最も期待される部分だろう。
ただし、昨シーズンに解任されるまでのブラウンはしばしばパニックに陥ったかのような不可解な采配も行っている。ニックスはキングスとは比較にならないほどプレッシャーが大きい。人気の面でも、ここ数年の成績から求められる結果という面でも、周囲を納得させるのは並大抵のことではない。
ニックスでブラウンがまず最初に納得させなければならないのは選手たちだ。ブランソンとジョシュ・ハートを筆頭に、選手たちはシボドーの手腕を信頼し、人としても愛していた。そのベースを上手く引き継ぐことが、ブラウンの最初の任務となる。