タイラー・ヒーロー

「我々はいかなる言い訳もしないことを美徳とする」

ヒートの戦うスタイルはパワフルで荒々しいものだが、彼らは勝ち方と同じように負け方も知っている。キャバリアーズに手も足も出ずスウィープ(0勝4敗)で敗退が決まった後も、相手を悪く言ったり、判定のせいにしたり、見苦しい振る舞いをすることはなかった。その姿勢をキャブズを率いるケニー・アトキンソンは「劣勢でも汚いプレーをしない。クリーンに、全力で戦うチームに最大限の尊敬を抱いている」という言葉で称えた。

ヒートの今シーズンが失敗に終わった最大の要因は、ジミー・バトラーを巡る騒動だ。シーズン始動前からパット・ライリー球団社長とバトラーは契約延長を巡って衝突し、侮辱されれば黙っていないバトラーが実力行使に出て、チームに混乱をもたらした末に移籍した。新天地ウォリアーズでプレーオフをイキイキと戦うバトラーの姿は、ヒートの面々にとって見ていて気持ち良いものではないだろうが、誰も彼を悪くは言わない。

指揮官エリック・スポールストラは「もちろん、影響はあった」と『バトラー問題』に触れるも、「しかし、我々はいかなる言い訳もしないことを美徳とする球団だ」と続けた。

「プレーオフは惨敗に終わった。批判されて当然だし、特にラスト2試合の不甲斐ない戦いぶりは恥すべきものだった。しかし、敵地でのプレーインの2試合を勝ち抜いてプレーオフ進出の権利を勝ち取った。お金では買えないし、amazonが届けてくれるものでもない。あの2試合は特別なものだ」

そして指揮官は、バトラーとともに戦った時期を「素晴らしい5年間だった」と振り返る。「物事には終わりがあり、ほとんどの場合はこんなドタバタ劇にはならないが、重要な選手の移籍はどうしても後味の悪さが残る。私たちの誰もが、あそこまでいく必要はなかったと思っている。それでも今はページをめくり、新たな章へと進む時だ」

「試合を決めるのは思ったほど簡単じゃない」

タイラー・ヒーローは、バトラーがチームでの役割を投げ出して『銭闘』モードに入ると、ヒートのオフェンスを引っ張る役割を引き継いだ。77試合、平均35.4分出場、23.9得点に5.5アシスト。これらの数字はすべてキャリアハイで、オールスターにも選出された。NBA6年目にしてヒーローはエースの役割を担うに至った。

「開幕前はこんなプレーをするとは予想していなかった。ジミーや当時は先発だったテリー(ロジアー)にボールを任せるつもりで、オフボールでのプレーを増やして繋ぎ役となるスタイルを意識してシーズンの準備を進めていたんだ」とヒーローは語る。

「でも状況が変わり、僕がボールを持つ回数が増えた。その恩恵を受けて上手くプレーできたと思うし、オールスターに選ばれて3ポイントシュートコンテストで優勝もできた。それと同時に試合を決める難しさも実感した。それが今シーズンの僕の成長であり、この夏にはそこで得た学びを生かして、試合の終盤でチームを勝たせる方法を探し求めるつもりだ」

『バトラー問題』については、「本当に大変だった。毎日バタバタで、いつになったらバスケに集中できるんだろう、と心配していた」と振り返る。彼もまたバトラーを悪くは言わない。ただ、プレーオフの最中に報じられた「ジミーがいなければ勝てない」という自身のコメントは強く否定した。「もしチームが82敗していたとしても、『誰かがいなければ勝てない』なんて僕は絶対に言わない」

「最後の2試合でシーズンを語ってほしくはない気持ちはある」とヒーローは語る。「でも、このリーグで個人の成長は良いことではあるけど、結局のところは勝たなきゃ意味がないことも理解している。だからこのオフも練習に励み、来シーズンにはまた勝てるよう努力するよ」