ケガ人続出のペリカンズで、成功も失敗も糧に成長
シーズン途中のトレードでラプターズからペリカンズに移籍したケリー・オリニクは、フロントコートでコンビを組むルーキー、イブ・ミッシの才能に驚嘆した。
「リムを守って前線へと走るだけで、相手の注意を引き付ける。身体を鍛えてディフェンスで相手のパワーに対抗できるようになったし、攻めでは速攻に合わせることも、強引に点を取ることもできる。何より素晴らしいのは学ぶ意欲だ。どこにポジションを取り、何をすべきかを理解している。ルーキーでこれだけやれる選手はそう多くないし、もう少し身体の使い方、スキルの生かし方を工夫すれば、もっと効率良くプレーできる」
オリニクの言うとおり、ミッシの体重はプロフィールの107kgからかなり増えているはずだが、選手としての能力と評価は体重以上に急上昇している。
と言うのも、昨年のNBAドラフトの1巡目21位でペリカンズに指名されたカメルーン国籍のセンターは、即戦力とは見なされていなかった。少なくともこの1年は、NBAのパワーとスピードに対応する準備期間となるはずだった。
チームとしても、ザイオン・ウイリアムソンをセンターに置くスモールラインナップで戦う構想で、オプションとしてのセンターはベテランのダニエル・タイスが担うはずだった。それでもペリカンズの指揮官ウィリー・グリーンは、若手にチャンスを与えるのを好む。トレイ・マーフィー三世が開幕から2週間欠場となり、ザイオンがパワーフォワードで、タイスがセンターで先発したこの時期、ミッシはいきなりタイスを上回るパフォーマンスを見せた。
その間にデジャンテ・マレーが、ザイオンが、ブランドン・イングラムが相次いで戦線離脱。気付けばスモールラインナップは撤回され、ミッシが不動の先発センターとなっていた。計算できるベテランでシーズンを通して稼働できているのはCJ・マッカラムだけ。ペリカンズの今シーズンが早々に悲惨なものとなる中で、ミッシは先発出場を重ねていった。
そして、オリニクが言及した『学ぶ意欲』により、成功も失敗も糧にして自分のプレーを磨いていった。決して得意ではなかったフローターが決まるようになり、ディフェンスでは最後尾から指示の声を出せるようになった。どちらも簡単なことではないが、ミッシはあっという間に吸収し、自分のものにしていく。若い選手にしかない吸収力に対し、33歳のオリニクは「うらやましい限りだよ」と笑った。
ミッシもオリニクのリーダーシップに感謝している。「得点、ディフェンス、リバウンドでチームに貢献するのはもちろん、素晴らしいバスケIQを持っていて、気付いたことはすべて教えてくれる。例えば試合中のちょっとした瞬間に『さっきはオープンだったぞ』と声を掛けてくれて、状況判断が悪かったんだと分かる。何かあるたびにアドバイスをくれるし、僕も事あるごとに彼に助言を求めている」とミッシは言う。
「自分の身体を大事に。そうしなければ乗り切れない」
ペリカンズが74試合を消化した今、ミッシの68試合出場、先発62試合はいずれもチームトップの数字となっている。12月にはペリカンズにとってザイオン以来となる月間最優秀新人賞にも輝いた。
NBAで最初の数試合に出場した時点で、ミッシはあまりのプレー強度の高さに「これを82試合もやるのか!?」と絶望したという。トレーニングキャンプからプレシーズン、開幕からの数試合で、わずかなチャンスをモノにしようと全力を尽くし、疲労困憊だった。その彼が今もエネルギッシュに戦えているのは、成長の証だ。
「自分の身体を大事にして、回復を最優先にして日々を過ごす。そうしなければ乗り切れないと学んだ」とミッシは言う。「休みの日もリカバリーのために練習場に行って少し身体を動かして、ストレッチをやって、水をたくさん飲む。些細なことだけど、習慣になるまでは難しかった。ここではCJのアドバイスが効いたよ。僕も彼みたいに長くNBAでプレーしたいから、彼のルーティーンを真似したんだ」
ペリカンズではザイオンのケガばかりが話題となるが、実際はザイオンに限らず主力が上から順にケガで欠けていく状況が続いている。ザイオン、イングラム、マレーの『ビッグ3』が同時にコートに立つ機会は一度もなかったし、1月にはハーブ・ジョーンズが、3月中旬にはマーフィー三世が早々にシーズンを終えている。
チームもファンもフラストレーションを溜める状況で、ミッシの成長は少なからずポジティブな要素となっている。予想外の健闘を続けるルーキーの躍進は、2週間後のシーズン終了まで続くだろう。