Bクラブのキーマンに聞く
Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
構成=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「昨シーズンのままでは富樫が出て行くのは当然です」

稲葉 理念を定めて、そこには「アグレッシブなディフェンスから走る」という方針がありました。まさにそのスタイルでオールジャパンを勝ち抜った形になりましたね。

島田 そうですね、走る走るのバスケそのままでした。

稲葉 私が見た中には勝ったにもかかわらずヘッドコーチから選手から「90点取られた」、「自分たちのやりたいバスケができていない」など反省のコメントばかりだった試合もあって、理念を掲げるだけでなく、そこに魂が入っているのを感じました。

島田 北海道との試合ですね。こういう理念や方針って、魂を込めないと『絵に描いた餅』なんです。会社の経営理念も同じですよ。掲げてあるだけで誰もやらない会社もある。ウチの強みは頭の先から爪の先まで徹底していることです。だから筋が通っているとは思います。

稲葉 一つ納得できたのが、富樫選手のことです。昨シーズンは3番手のポイントガードで、正直なところ千葉に残るとは思っていませんでした。よく慰留できたと思っていたんです。

島田 昨シーズンのままでは富樫が出て行くのは当然です。他に取りたいチームはいくらでもあるので。富樫には説明しましたよ。「大野をヘッドコーチにしてこういうスタイルでやる、だからお前だよね」と。ただ、実際にはフタを開けてみないと分からない部分もあります。ただ「使うから」という口約束をしても、彼はアメリカ人の考え方をするので、そんなファジーなことでは納得しません。そこは私との信頼関係があったからだと思っています。

稲葉 富樫選手はこの先の慰留も大変かもしれません。

島田 優先順位として「本人のため」は大事だし、究極的には「日本のバスケのため」を考えますよ。大局観を持ってやります。なので「世界に挑戦したい」と富樫が言うのであれば送り出します。ただそれは「じゃあね」ではなくサポートします。チャレンジはしてほしいけど、後で後悔してほしくない。私が意見誘導するわけじゃなく、ゴールから逆算して考えます。NBAでプレーするためなのか、東京五輪で日本を躍進させるためなのか。後者であれば千葉のほうがいいかもしれない。それなら慰留します。前者だったらすぐNBAでなくてもヨーロッパのほうがいいかもしれない。そこでゴールとの整合性が取れているかどうかは私からも言います。彼はクラブの宝でもあるので、そういう付き合い方をしたいです。

「今シーズンの成長は、選手よりもスタッフの改革が大きい」

稲葉 理念を共有できる大野さんにヘッドコーチを任せ、富樫選手にポイントガードを託すと決めた上で、走れる外国籍選手を連れてきたという流れがすごく分かりました。

島田 もう一つ大きなところはスタッフの改革です。昨シーズンまでは佐藤博紀ヘッドコーチ代行がいて、通訳兼アシスタントコーチに廣瀬(慶介)、そしてトレーナーが1.5名とマネージャー、以上の体制だったんです。でも、理念を徹底するには弱いと見て、改革しました。今は大野ヘッドコーチの下に、金田詳徳とカルバン・オールダムという2人のアシスタントコーチがいて、廣瀬は通訳専任。マネージャー、ストレングストレーナーとアスレティックトレーナーが1名ずついます。

稲葉 ストレングストレーナーは新しい役職になりますね。

島田 ストレングストレーナーは、選手のフィジカル、体幹を強くすることだけを役割にしています。ウチの選手のシュートタッチが今シーズン良くなってるのはこのおかげです。特に原(修太)なんかは身体つきが変わりました。

稲葉 アシスタントコーチはやはり2人必要なんですか?

島田 昨シーズンの廣瀬は通訳がメインで、アシスタントコーチとしての仕事はあまりなかったんです。今は金田が主に日本人選手を、カルバンが外国籍選手をフォローして、大野ヘッドコーチを含む3人で意思決定をしている。日本人選手と外国籍選手のコミュニケーションは結構難しいのですが、コーチ陣の結束がすごく強くて、そこで理念を共有し、コミュニケーションを取っています。私が選手ともスタッフとも食事に行って、理念に基づいてアプローチすることを基本スタンスとしてコミュニケーションを取っています。GMとしての私のフォローはそれぐらいです。

稲葉 意思決定のプロセスに一本筋が通っていれば、選手も不満を持ちづらいわけですね。

島田 そうですね、船頭多くして……にならないように。コーチの目が行き届く中での、3人での合意形成によって選手起用が決まっているのであれば、選手の中に不満も出にくい。個人の好き嫌いとか、気分で選手起用を決めているのでないのは明らかですから。骨太になって、やるべきことがはっきりした。それを維持継続できているのはこの体制のおかげです。今シーズンの成長は、選手よりも体制の改革が大きかったと思います。

千葉ジェッツ 島田慎二代表に聞く
vol.1「地域密着を実現するには経営を強くして、地元で存在感を出すしかない」
vol.2「経営と集客って結構似ているというか、経営そのものだと思います」
vol.3「チームも経営と同じ、骨太の方針を決めることで一本筋を通そうとした」
vol.4「究極的には大局観を持って『日本のバスケのため 』を考えますよ」
vol.5「可能性をみんなに感じさせて、引っ張っていくリーダーシップが必要」