Bクラブのキーマンに聞く
Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
構成=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「期待値が上がる状況を作っていかなければならない」

稲葉 ここまで話して何が分かったかというと、プロスポーツクラブだからと特別なやり方があるわけじゃなく、経営で大事な部分を徹底してやるということですね。

島田 目標設定して、ゴールに導くことができるのがトップなんです。ウチはスタッフの残業を原則禁止しています。平均年収は全クラブでかなり多いほうだと思います。労働時間も効率化を図っているので一番短いのではと思います。この世界特有の「好きだから貧乏暇なし」のような境遇には陥っていません。メリハリがあって、女性でも結婚した後も働くことができる。観客動員が一番ということで、スタッフにも誇りがあると思う。選手にもたくさん年俸を払っているつもりです。選手はいつまでできるか分からない中、生活を懸けてやっているんだから、こちらはビジネスをしっかりやって、選手に投資できる状況を作らないと。大盤振る舞いはしないけど、みんながハッピーであるべきだと思っています。

稲葉 これもまた、言うのは簡単ですけどやるのは難しい話ですね。

島田 経営者だから自分たちの利益を考えることはありますが、「世のため人のため」という発想、大局観を持たないと発展しません。「金がない」と言うのは稼げない経営者だと自ら言っているようなもので、それでは発展しないですよ。クラブだけでなくリーグもそうです。「何のためにやっているのか」を問いたい。

稲葉 島田さんはバスケ界全体をもっと向上させたいとの考えを強くお持ちだと思うのですが、実際どういう感じなんでしょうか。

島田 私は「今、バスケ界は買いですよ」と言って回っているんです。もう少し、みんなの期待値が上がる状況を作っていかなければならない。私のやり方は期待値を上げて、そこにアジャストする。アジャストする確率を高めるのが経営だと思っているので。可能性をみんなに感じさせて、それを引っ張っていくリーダーシップが必要です。

「ワクワクしないところにお金は集まらない」

稲葉 先日、B2クラブの社長を集めて勉強会を実施されましたよね。ああいう形でジェッツのノウハウが広がって各クラブの経営が強くなれば、バスケ界はもっと盛り上がりますね。

島田 批判もないわけじゃないんです。やってきたことを公開するのはジェッツの競争優位性を損ねるんじゃないか、とか。単純に「調子に乗っているんじゃないの」と言う人もいるでしょう。こういう前代未聞の勉強会にしても観客動員数にしても、ジェッツが起爆剤として突き抜けることで、「バスケ界は捨てたもんじゃない」と思わせたいんです。ここで多少の成功を収めたいなんて、そんなショボい話じゃない。私はスポーツビジネスという言葉があまり好きじゃなくて。やはり組織は関わる人たちを幸せにするために存在するものだし、経営者は目標を設定して、ゴールに導くためのリーダーシップを発揮する人でないといけません。

稲葉 少し話が戻りますが、「バスケ界は買いですよ」と言う根拠は何ですか?

島田 単純な話で、株価が安いからです。株価は低いし、上げられる人もいない。リーグ統合、Bリーグ開幕という、ある種上場したてのような状況で一瞬株価は上がったものの、ジリジリ下がっている。手を尽くして低いのであれば、その商材に魅力がないということなんですが、やれることはまだまだたくさんあるはずですよね。それで低いだけなので、投資するのであればまさしく『買い』ですよ。なんかよく分からない話になってきたけど(笑)。

稲葉 実際のところ、Bリーグは盛り上がっているようで、大きなお金が動いているわけじゃないですからね。

島田  私がこういうのをやっていると、「行けるかも」と思うでしょ。世の中を変えるには「行けるかも」と思わせるしかないんですよ。ウチも最初はダメダメでしたが、「行けるかも」と言っているうちに「行ってるのかも」、「行ってるじゃん」、「すごく行ってる」、「行きまくってるじゃん」となる。ワクワクしないところにお金は集まらないです。

稲葉 ではバスケ界を「ワクワクする」世界にどんどん変えていく急先鋒になっていただくということで、期待していますし応援します。我々もメディアの立場で頑張って盛り上げますので!

島田  ありがとうございます。なので頑張りますよ!

千葉ジェッツ 島田慎二代表に聞く
vol.1「地域密着を実現するには経営を強くして、地元で存在感を出すしかない」
vol.2「経営と集客って結構似ているというか、経営そのものだと思います」
vol.3「チームも経営と同じ、骨太の方針を決めることで一本筋を通そうとした」
vol.4「究極的には大局観を持って『日本のバスケのため 』を考えますよ」
vol.5「可能性をみんなに感じさせて、引っ張っていくリーダーシップが必要」