ジェイレン・ブラウン&ジェイソン・テイタム

勝つための過度な投資に老父が「ノー」を突き付ける

優勝パレードの数日後、セルティックスのオーナーグループの中心人物であるウィック・グルースベックは、今年中か来年初めにはセルティックスの過半数の株式を、残りを2028年までに売却する意向を表明した。グルースベックは2002年に3億6000万ドルでセルティックスを買収し、球団運営の会社を立ち上げてクラブを運営してきた。

セルティックスの売却は、2つの意味で異例だ。一つは歴史的に成功を収めた名門であること。もう一つは売却を表明した時点で優勝している強いチームであることだ。さらに言えばNBAは高額のメディア放映権契約を締結したばかりで、この先に高い収益を上げることが確実視されている。普通に考えれば、このタイミングで22年間保有してきたセルティックスを手放す理由はない。

グルースベックはその理由を「家族の問題」と説明している。これは具体的には90歳になる彼の父親、アーヴィンの意向だ。ジェイレン・ブラウンとジェイソン・テイタムにスーパーマックス契約を与えるのが分かっていながら、グルースベックは他にも高額の選手を集めて最強のチームを作った。ブラウンとテイタムという両エースが同じ世代に揃い、これから全盛期を迎える。時を同じくしてレブロン・ジェームズ、ステフィン・カリー、ケビン・デュラントといった『NBAの顔たち』は高齢で力が落ち始めた。この絶好機を逃さず強力なチームを作り上げたのは、優勝を決めた今となっては最高の手腕だった。

ただ、この先は高額の支払いから逃れられない。今シーズンからはブラウンの、1年後にはテイタムのスーパーマックス契約がスタートするにもかかわらず、何人かの主力に『優勝のご褒美』の契約延長を与えた。『BOSTON.com』の試算によれば、サラリー総額1億8700万ドル(約280億円)で4500万ドル(約68億円)のラグジュアリータックスを科された昨シーズンの収支はギリギリの黒字。だが年俸は2025-26シーズンには2億2000万ドル(約330億円)となり、ラグジュアリータックスは繰り返すことで額が増えていくため、2025-26シーズンには年俸総額を上回る2億8000万ドル(約420億円)になると見込まれている。このままだと2年後のロスター費用総額は5億ドル(約750億円)を超え、どれだけ収益が増えたところでカバーはできず、巨額の赤字を出すことになる。

グルースベックは6月の時点で「我々はオーナーだが、同時にファンでもある。愛を持って、セルティックスの誇りのために働いている。優勝を勝ち取るためにできる限りのことをする」と『The Boston Globe』の取材に語っている。

グルースベックはそれでも勝つことが新たな収益を生み出してクラブの収支バランスが取れると考えたが、老父はそれに待ったをかけた。アーヴィンは90歳と高齢だが、今もなおスタンフォード・ビジネス・スクールの教授を務める『現役』であり、セルティックスの株式の約20%を保有している。対するウィックは運営会社の舵取りを任されているもののわずかな株式しか持っていない。家族と株主、両方の意味でアーヴィンの意向には従わざるを得ないのだ。

現在、公式に買収に手を上げているのは、すでにオーナーグループの一員であり大手投資会社を経営するステファン・パリウーカのみ。彼はグルースベック家が退いても今のオーナーグループをまとめてセルティックスを運営していく意向を表明しているが、噂に出たamazon共同創設者のジェフ・ベゾスのような大物資産家との競争になることが予想される。

グルースベックは60億ドル(約9000億円)での売却を望んでいるようだが、セルティックスがこの先に大きな赤字を出すことを考慮すると50億ドル(約7500億円)あたりで決着するのではないかと見られる。いずれにしても、2022年にサンズが買収された時の40億ドル(約6000億円)を超えるNBA史上最大のビッグディールになるのは間違いない。