文=鈴木健一郎 写真=(C)WJBL、野口岳彦

「トヨタさんが来るだろうと思って見ていました」

3月8日から行われるWリーグのプレーオフ・ファイナルは、JX-ENEOSサンフラワーズとトヨタ自動車アンテロープスの対戦となった。

JX-ENEOSは、デンソーアイリスと戦ったセミファイナルを2連勝で勝ち抜いている。もう一方のセミファイナル、トヨタvsシャンソンVマジックは3戦目までもつれた。JX-ENEOSのエースである渡嘉敷来夢は、この3戦目をテレビで見ていたと言う。

「やっぱり自分たちが戦うことを想定して、『これをやって来るんだ』とか『ここを止めないと』という見方をしますね」と言う渡嘉敷は、「トヨタさんが来るだろうと思って見ていました」と明かす。

「自分のマッチアップする矢野(良子)さんに対しては3ポイントシュートやフェイダウェイを抑えていかないとな、森(ムチャ)さんはパスフェイクからの1対1が上手なので見ていたり」と、対戦のイメージをふくらませながらテレビ観戦していた。

「でも、一番注目して見ていたのは水島です。そこはやはり高校の同期なので」と、今シーズン躍進するガードの名を挙げた。水島沙紀は桜花学園から東京学芸大に進学し、トヨタに入って3年目。今シーズンにスタメンの座をつかみ、激しいディフェンスと思い切りの良い3ポイントシュートでチームに欠かせない存在へとステップアップした。

「リーグ戦の3試合では、ミスマッチになってマッチアップすることもあったので、そこは絶対に止めたいです。波に乗るとオフェンスもディフェンスもすごい選手なので、乗せないように」と、渡嘉敷は水島を警戒する。

セミファイナルの間も、この2人は連絡を取り合っていたそうだ。「1試合目にトヨタさんが勝った時に相手のスコアラーを止めてインタビューを受けていて『やるじゃん』と言っていたんです。逆に2試合目は2点しか取れなくてヘコんでいて、私からは『ファイナルで待っているから頑張れよ』というやり取りをしていました。そうしたら次の試合、相手のスコアラーを前半0点に抑えたり、すごい活躍だったんです。『ファイナルに行きたい』という強い気持ちは聞いていました。私や岡本(彩也花)とファイナルのコートに立ちたい、と。そういう部分では、やはり同期の絆はありますね」

経験豊富なベテランが多いトヨタの「勝負強さ」を警戒

「乗せると怖い」のは水島に限らない。渡嘉敷から見ると、トヨタそのものが「乗せると怖い」チームだ。「私はディフェンスで頑張りたいです。相手には勢いがあります。乗せてしまうと本当に怖いチームなので、その勢いをディフェンスで止めたい。3ポイントもドライブも止めたいです。それができれば、あとは相手どうこうではなく自分たちのバスケットをやることです」

高校の同期である水島、そして日本代表としてリオ五輪をともに戦った栗原三佳という、当たり始めたら止まらないシューターには警戒が必要。それと同じぐらい警戒しているのが、ベテランが多いチームの『勝負強さ』だ。

「クォーターファイナルの紡織さん(トヨタ紡織)とも結構いいゲームをしていたんですが、最後は勝負強さが出ました。ベテランの選手が多いので経験があります。セミファイナルの3戦目でもそういう強さが出ました。ウチも注意しなければいけないと思っています」

慢心とは無縁のJX-ENEOSのエースらしく、ファイナルの『決戦』に集中している渡嘉敷だが、Wリーグのシーズン終了後には3シーズン目のWNBAに挑むことが既定路線となっている。

「行く方向ではいます。でも今は何も考えていないです」と渡嘉敷。「まずはファイナル優勝間近なので、そこに集中です。あと3勝するまで、一戦ずつしっかり戦いたいですね。それが終わったらスイッチを切り替えます」

シアトルストームでプレーするのであれば、チームにも環境にももう慣れている。1年目のような戸惑いはないし、昨年のようにリオ五輪を控えたピリピリした感じはない。「もう3年目なので、アメリカのほうは何とかなるかなあと」と渡嘉敷は笑う。

まずはファイナル。2016-17シーズンを渡嘉敷がどんなパフォーマンスで締めくくるのかが楽しみだ。