ショーン・マークス

「この再建はそう長いプロセスにはならない」

ミケル・ブリッジズをニックスに放出した時点で、ネッツは新シーズンの勝利をあきらめたも同然だ。ショーン・マークスGMは、ブリッジズの放出をこう説明する。「チームが置かれている状況を考慮し、タイミングを見計らっていた。ミケルはこのチームの要であり、放出する決断は容易ではなかったが、ニックスからのオファーはこのチームを永続的な成功へと導くものだった。タイミングも内容も、我々にとって圧倒的にベストだった」

ブリッジズとのトレードで手に入れた1巡目指名権は5つで、それと同時にロケッツとの交渉で過去に手放していた自前の1巡目指名権を取り戻し、『豊作』と言われる2025年のNBAドラフトに1巡目指名権2つを持って臨む。その1つは自前の指名権で、新シーズンにタンクすることで上位指名権となる。

サラリーの柔軟性も非常に大きなものになる。ベン・シモンズの馬鹿げた契約は来シーズンの4000万ドル(約60億円)限りで切れる。ボーヤン・ボグダノビッチの1900万ドル(約30億円)、デニス・シュルーダーの1300万ドル(約20億円)も来シーズンで満了を迎え、1億ドルものキャップスペースが生まれる。キャム・トーマスの契約を延長しない可能性もあるし、ブリッジズ放出後に最大のタレントとなるニコラス・クラクストンも良いオファーがあればトレードに応じる構えだ。

「我慢強くやっていく」とマークスGMは言う。「相手のある話だからある程度は成り行きに任せていくことになる。フリーエージェント市場はまだ動いているし、じっくり戦略的に取り組むつもりだ。迅速な対応が取れるわけではないが、この再建はそう長いプロセスにはならないと思っている」

マークスがネッツのGMになったのは2016年のことで、2011年に現役を引退した彼は、スパーズでのフロント修行を経てネッツにやって来た。この時もチームは再建中、しかもそのための材料が全くない『暗黒期』だった。

「あの時もチームは再建中だった。当時とは違って今回は資産があるから、戦略的にやるんだ。新しい労務協約の下、各クラブのチーム作りがどう変化していくかは誰にも分からない。だからこそキャップスペースも大切になる。私が作りたいのは、成功を収められるだけの力を持ち、なおかつ持続可能なチームだ」

タンクはするが、ひとまず1シーズン。それでダメならもう1シーズン。そこに期限を設定し、そこからはキャップスペースと指名権を利用してチームを強化するフェイズに入る。それがマークスGMの考え方だ。

そして彼は、再建を進める上でできる限り正直であろうとしている。だからブリッジズにはトレード交渉の状況を逐一伝えていたし、ブリッジズ放出が決まった後はクラクストンに「ミケルに代わるスター選手の獲得は、少なくともすぐには実現しない」と伝え、「チームが長期的な成功を収めるために進むべき道だ」と説明したという。

「チームの方針は選手全員に説明したよ。私はこの問題を軽く扱いはしない。チームは家族で、その大事な一員が去ったんだ。プロスポーツ界の非情な一面ではあるが、だからこそ私は正直でありたい」

それは新たにヘッドコーチに就任したジョルディ・フェルナンデスに対しても同じだ。初めてヘッドコーチを務めることが決まってから2カ月のうちに、エースが放出されてチームは再建へと舵を切った。それでもマークスGMはフェルナンデスがヘッドコーチに決まる前から、すべてを説明して同意を得ていたという。

今はカナダ代表を率いてオリンピックの準備をしているフェルナンデスはこうコメントしている。「私にはコントロールできないことだから待つしかない。ただ情報は常に共有されている。私はSNSをやっていないので、メッセージが来る。ブリッジズのトレードについても、メディアで報じられる前に知っていたよ。マークスGMが選択する道に私は賛同しているし、彼がチームを我々の望むレベルへと導いてくれると信じている」

サラリーキャップのルールが変わり、その影響がこれから各チームに降りかかる。その時、ネッツが今持っている柔軟性はプラスに働くはずだ。前回は困難な再建を成し遂げたが、ケビン・デュラントとカイリー・アービングに託したチームは『持続可能』ではなかった。今回はより慎重に、戦略的に動かなければならない。タンクの1年になるだろうが、ネッツの動きは注目に値する。