今シーズンはベンチスタートの屈辱を味わう
クレイ・トンプソンはSNSでウォリアーズのアカウントをフォローから外し、ここ数年のチームに絡んだ投稿の多くを削除した。これで両者の関係が破綻したと決まったわけではないが、それを暗示しているのは間違いない。
クレイとウォリアーズの5年1億9000万ドル(約290億円)の契約は今オフをもって満了を迎える。2019年にウォリアーズはスリー・ピート(3連覇)を逃し、クレイはラプターズとのファイナル第6戦で左膝前十字靭帯断裂の大ケガを負った。速攻に走ってシュートに行った際、ブロックを浴びて空中でバランスを崩して着地し、膝を痛めたのだ。一度はロッカールームに下がろうとするもコートに戻り、フリースロー2本を決めてから退場したが、この勇気ある行動が膝のダメージを増幅させたと言われている。
マックス契約を結んでからの5シーズン、クレイにとっては困難な時期が続いた。リハビリは難航し、途中で右足のアキレス腱断裂のケガも重なって2シーズンを全休。2021-22シーズンにチームは優勝を勝ち取ったが、クレイの貢献は限られたものになった。翌2022-23シーズンにはリーグトップの301本を決めて3ポイントシュート王になったが、今シーズンは調子が上がらず、ベンチスタートや接戦の終盤をベンチで過ごす屈辱を味わった。
ウォリアーズはステフィン・カリーとの契約が残る2026年までの2シーズン、『王朝』の体制をできる限り維持して優勝を目指そうとしている。34歳で大ケガも経験したクレイはもはやかつての彼ではないが、ウォリアーズは彼の慰留を第一に考えている。ただ、大盤振る舞いはできない。今シーズンはカリーにチームトップの5200万ドル(約78億円)を、クレイにはそれに続く4300万ドル(約65億円)を払っていたが、チーム全体の戦力を充実させるためには、クレイは残留させても年俸は大幅に下げたい。そこから両者はすれ違うことになる。
昨秋にクレイは「お金ならこれまでで十分に稼いだ。限られた条件の中で最大限に稼ぎたいという気持ちはゼロじゃないけど、勝利より優先されることはあり得ない」と語っているが、問題はそれほど単純ではない。この1年間、クレイとウォリアーズとの契約交渉はまとまらなかった。昨年オフにウォリアーズが4800万ドル(約72億円)の2年契約を提示したが、クレイ側は同意しなかったと言われている。
プレーイン・トーナメントでキングスに敗れてシーズンが終わった4月中旬、クレイは「もう一度優勝して、親指にも優勝リングをはめたい。とてつもない努力が必要だとしても、まだ手の届くところにあると思っている」と語っている。これはあくまでウォリアーズ残留を想定しての発言だ。
それから2カ月が経過した。あと2週間でクレイとウォリアーズの契約期間は終わる。34歳になったとは言え、今シーズンの彼は77試合に出場し、そのことを彼自身が「ケガで何年か休んで復帰して、あれだけ試合に出るのは強い意志が必要だ。ケガやスランプを乗り越える意志の強さを学んだ」と収穫に挙げている。
スター選手を複数擁して優勝争いを演じるチームにサラリーキャップの余裕はなく、クレイを簡単に獲得できるわけではない。しかし、若手中心で伸び盛りのチームであればウォリアーズより良い条件を提示できる。クレイのシュート能力と勝者のメンタリティを必要とするであろうチームは、サンダーやマジックとされる。『沈みゆく王朝』に残るよりも、新天地を目指すほうが刺激を得られる可能性はある。今回のSNSでのフォロー外しは、キャリア終盤を迎えた彼が新たな一歩を踏み出す『ケジメ』なのかもしれない。