ジェイデン・マクダニエルズ

プレーオフになると急激にディフェンスの戦いへ

ハイスコアゲームが日常となった近年の流れ通り、レギュラーシーズンでは平均オフェンスレーティングが史上最高を記録しましたが、プレーオフになると急激にディフェンスの戦いへとシフトしたのが印象的なファーストラウンドになっています。同時にエースよりも『エースキラー』の働きぶりが目立ったファーストラウンドでした。各チームのエースキラーの活躍を振り返ってみます。

ペリカンズのハーブ・ジョーンズはMVP候補のシェイ・ギルシャス・アレクサンダーを大いに困らせ、まともにシュートを打たせませんでした。しかし、それ以上にサンダーのルーゲンツ・ドートがブランドン・イングラムを封じ込めました。ドートのフィジカルなディフェンスはイングラムにシュートを決めさせないだけでなくメンタルも削っていき、シリーズの後半になるとイングラムがシュートに自信が持てなくなって自滅するシーンも出てきました。

ティンバーウルブズのスイープ勝利における最大の要因となったのはジェイデン・マクダニエルズとニキール・アレクサンダー・ウォーカーの2人がデビン・ブッカーを試合から消したことです。ブッカーは2人のどちらかとマッチアップした合計201回で43得点だったのに対し、他の選手とのマッチアップでは合計133回で68得点を奪っています。ウルブズからするとブッカーを消すことが最優先事項でり、サイズのあるマクダニエルズがシュートを封じ込め、ハンドチェックの上手いニキールはブッカーからターンオーバーを促しました。

そのサンズでは追い込まれたゲーム3の終盤からジョシュ・オコーギーが起用され、アンソニー・エドワーズを止めに行きました。28回のマッチアップで5得点しか許さなかったオコーギーのディフェンスは見事でしたが、ウルブズはスクリーンを使ってオコーギーからブラッドリー・ビールにスイッチさせて解決させています。個人のディフェンス力だけではスーパースターを止めることはできませんでした。

同じような現象として、バックスのパトリック・ベバリーはタイリース・ハリバートンに張り付いて満足なプレーをさせませんでしたが、ハリバートンへの警戒を強めた分だけ周囲には時間とスペースが与えられることとなり、効果的とは言えませんでした。平均16得点と得点では苦しんだハリバートンですが、9.7アシスト、2.7ターンオーバーと通常通りに起点役として高精度のオフェンスを牽引しています。結局、バックス側がゲーム4の途中から戦略を変更し、ハリバートンへの徹底マークを辞めることになりました。

ペイサーズではデイミアン・リラードの離脱もあってアンドリュー・ネムハードの仕事が減った一方で、アーロン・ネスミスはクリス・ミドルトンへの対処に大忙しとなりました。フィジカルにもスピードにも対応するネスミスはハードなディフェンスでミドルトンにタフショットを打たせることに成功しましたが、これをミドルトンが高確率で沈めて上回りました。

少し変わったところではヒートがバム・アデバヨをジェイソン・テイタムとマッチアップさせてきました。この作戦は大いに当たり、テイタムはアデバヨを相手にするとシュートに行けなりましたが、リムプロテクターでもあるアデバヨがエースキラー役になるとゴール下にスペースが空き、ジェイレン・ブラウンとデリック・ホワイトに次々に得点を許してしまいました。センターでありながら誰でも守れるアデバヨのすごさと、センターとしてリムを守る重要性の双方を感じる内容となりました。

ニックスのOG・アヌノビーはリーグ最高レベルのディフェンダーとして、シクサーズのトバイアス・ハリスに何もさせませんでしたが、ポジション的にエースキラーとは呼べませんでした。ところがセンター陣がケガとファウルトラブルが続いたゲーム4の終盤にジョエル・エンビードとマッチアップするとボールすら持たせず封じ込めています。シーズン中にはニコラ・ヨキッチですら止めきったアヌノビーの異常なディフェンス力は、ニックスが勝ち進むためのキーポイントになります。

対策とアジャストの戦いになるプレーオフでは、エースキラーの存在はレギュラーシーズンとは別格の輝きを放ちます。今シーズンのファーストラウンドはエースキラーが目立ったと同時に『エースキラー対策』のできたチームが勝ち上がりました。相手エースを輝かせない『エースキラー』の仕事ぶり、その『エースキラー』を輝かせないためのチームとしての対処力が、セカンドラウンドの勝敗を左右しそうです。