辻直人

文=鈴木栄一 写真=野口岳彦

「今は卒業式前に似たような感情があります」

ワールドカップのアジア予選が進むにつれ、日本代表はビッグマンだけでなくガード、フォワード陣もゴール下へのペイントアタックを強調する傾向がより強くなっている。そんなチームに貴重なシューターとしてメンバー入りを果たそうとしているのが辻直人だ。

「今は卒業式前に似たような感情があります」

これは日本を発つ前、代表合宿の取材で辻に現在の心境を尋ねた時の返答だ。様々な出来事があったワールドカップ予選の最後が、辻にとって大きな区切りになるということだろう。

リオ五輪世界最終予選の2試合においてチームトップの平均14.5得点を挙げるなど、辻は日本代表の主力を担っていた。しかし、現在のフリオ・ラマス体制下においては発足当初から序列は下がる。Window2の台湾戦で3ポイントシュート8本成功を含む26得点と大暴れし、続くフィリピン戦でも11分出場で8得点をマークしたが、それ以降はこれといった活躍はなし。故障もあって招集を外れた時期もあり、メンバー入りを果たしてもWindow4のカザフスタン、イラン戦はともにプレータイムなしに終わっている。

思うように代表で結果を残せないことへの危機感はなかったのか。こう問いかけると「それは、もちろんありました。一発目(Window1)に外れた時はかなり危機感があり、Windows2はこれが最後のチャンスというくらいの気持ちでした」と辻は答える。

辻直人

「3ポイントシュートでチームに勢いをつけたい」

代表の主力ではなくなり、プレータイムを安定してもらえなくなったことで、あらためて気づいたことがある。日本代表を目指すことが何よりも自分の活力になっていることだ。

「Window3のオーストラリア戦や台湾戦でプレータイムがもらえず(2試合合計で7分)、存在感が薄まるのを自分なりに感じ、モチベーションが落ちたこともありました。その中でもBリーグの試合は続いていましたが、調子はあまり良くなかったです。それが、代表でやっぱりプレーしたいとより思うようになってからは、ケガ明けですけど状態も良く、良いパフォーマンスが出せるようになりました。自分の中で代表は最大のモチベーションです」

ペイントアタックを重視するスタイルとこれまでの起用法を見れば、今回も辻に多くのプレータイムが与えられることはないのかもしれない。しかし、彼の十八番である3ポイントシュートは一発で試合の流れを変えられる頼もしい武器であり、本人も強く意識する。「3ポイントシュートでチームに勢いをつけたい気持ちはあります。それにこれだけインサイドを攻められるメンバーが揃っているので、アウトサイドが生きてくる。そういうところで力になりたいとはすごく思います」

攻撃の要となるニック・ファジーカスと、誰よりも円熟したコンビプレーをこなせるのは辻だ。「そういうところで僕は生き残っていかないといけないですし、チームの力になりたいです」と続ける。

辻直人

「僕がいることで雰囲気が良くなるならそれが仕事」

冒頭で辻は来たるべきWindow6を卒業式前の心境と語ったが、当然のように今回の予選が終わることで何かから卒業することはない。それよりも、アジアを突破できれば辻にとって初めてとなるワールドカップ本大会、そこから「自分の中で最大の目標にしないといけない舞台」と表現する東京オリンピックへと繋がってくる。

そういった面では、「卒業式ではなく、入試ですね。今はドキドキしています」という高揚感があり、チームのために何でもこなす意気込みだ。

「まずは、コンディションをベストにすることが大事です。その上で、話したようなところで力になりたいです。僕がいることでチームの雰囲気が良くなるならそれが仕事だと思いますし、本当にこの2試合はできる限りのことを全力でやりたいです」

試合の流れが悪い時やこう着状態に陥った時、チームに勢いを与える起爆剤となり得る一撃必殺の3ポイントシュートを決める代表随一のシューターとして、辻のここ一番での貢献ぶりを期待せずにはいられない。