「こういうゲームになると自滅したほうが負けます」
シーホース三河は前節で秋田ノーザンハピネッツに連勝した。第2戦の最終スコアは95-94。打ち合いの展開となり、最終クォーター残り2分半で6点差と突き放されたが、そこから盛り返してラスト3.7秒で勝ち越し。リードチェンジを繰り返す大混戦を1点差で制した。
試合を通じてオフェンスを引っ張ったのはフル出場で41得点を挙げた金丸晃輔だったが、クラッチタイムに仕事をして勝利の立役者となったのはキャプテンの狩俣昌也だ。残り30秒からのオフェンス、ゴール下のアイザック・バッツからのアシストを受けて同点に追い付く3ポイントシュートを決める。さらに残り3.7秒で迎えた最後のオフェンスでは、自らアタックしてファウルを誘い、そのフリースローが決勝点となった。
狩俣は「点数の取り合いになって我慢の時間が長かったゲームでした」と振り返る。「やっぱり、こういうゲームになると自滅したほうが負けます。そこはチームとして冷静にディフェンスができました。自分たちのファウルも溜まっていましたが、コントロールできた。それは僕一人じゃなく、チームとしてやれました」
三河に加入して3年目の30歳。過去2シーズンは橋本竜馬に続く2番手のポイントガードを務めてきた。橋本が移籍した今シーズン、今度は自分が先発で、という思いがあったに違いないが、ここまで消化した40試合のすべてで若い生原秀将が先発ポイントガードを務めている。若手育成にシフトした今シーズン、特別指定選手として加わった熊谷航にもプレータイムが与えられており、この試合でも生原が先発。次に熊谷に出番が来て、狩俣が起用されたのはその後だった。
狩俣はその起用について「何とも思ってないですね」と語る。「スタートでも2番手でも3番手でも、出た時に自分に求められることをやるつもりなので。そういう意味では、出る順番よりもゲームの内容を受けて、どう貢献できたかです。ある程度ゲームを見てから入るので、チームの誰が乗っているか、相手のディフェンス、ゲームの流れを把握できます」
この試合、秋田のハイプレッシャーをかわすために、三河はほとんどの時間でツーガードを採用した。狩俣は第1クォーターの終盤に投入されたが、そこからほぼフル出場して最終的なプレータイムは若い2人を上回る29分半まで伸びた。これは信頼の証に他ならない。煽りに煽られても落ち着いてボールを運び、15得点10アシストのスタッツを残している。
「今やっとこういうプレーができるようになりました」
「自滅したほうが負け」と狩俣が表現したこの試合、ラスト2分半の攻防は実に見応えがあった。残り2分半の時点で6点差とされた三河はタイムアウトを要求。ここで慌てたら三河が自滅していただろうが、狩俣は「僕のバスケットの考え方として、1分で2ポゼッション以内であれば大丈夫です。2分以上あったので、焦ることは全くありませんでした」と平静を保っていた。
「いろんな経験をしてバスケットを学んできました。僕は若い頃にすごい選手だったわけではなく、日々の練習を重ねて、今やっとこういうプレーができるようになりました」と言う狩俣は、小野寺祥太の強烈なプレスをいなし、相手のファウルを誘って退場へと追いやる。これを機に試合は三河へと傾く。アイザック・バッツからのパスを受けた狩俣が、キャッチ&シュートでの3ポイントシュートを決めきって94-94の同点に。
ホームの観客は逆転勝利の予感に沸いていたが、狩俣を始め三河の選手たちはなおも落ち着いていた。残り17秒で同点、秋田のポゼッション。まだ優位は秋田にあった。「どちらもチームファウルが5つ溜まっている状態で、ノーファウルでしっかり止める、リバウンドを取るということが第一でした。続く攻めで自分にボールが来たら、時間もないしタイムアウトも残っていなかったので、アタックして最悪ファウルをもらえればフリースローです。残り時間が1秒でも2秒でもあればチャンスはあると考えていました」
秋田は落ち着いて攻めるべき場面で慌て痛恨のターンオーバー。この時点で狩俣は準備万端、クリアな意識で攻めに転じた。「ボールをもらった瞬間に金丸選手が見えたんですけど、ディフェンスもついていたので、僕がアタックしようと。その結果、ファウルになりました」
鈴木貴美一ヘッドコーチはこのプレーを称賛する。「きれいなバスケットをやっていたら、今日は勝てなかったと思います。あの場面、狩俣はレシーバーを探さず自分でアタックしたことでファウルをもらえました。相手がどう来ようがアタックした、それが良かった」
「チームとして、誰が出ても勝つのが大事」
結果、ここで得たフリースローが決勝点となった。2投目を外したのはご愛敬。「2本目は外してしまったんですけど、相手はタイムアウトを残していたので、結果としては良かったですね」とホッとしたように笑う。
キャプテンを務める狩俣が喜ぶのは、個人の活躍ではなくチームの勝利と向上だ。「オレが、という意識はないですね。僕はチームとして、誰が出ても勝つのが大事だと思っています。ここ数試合、勝つべき試合で勝てるようになってきました。今日もすごく我慢して、タフな状況がたくさんあったんですけど、チームとして集中を切らすことがなかったです。今シーズンはこういうゲームで勝つことが少なかったのですが、変わってきました。その変化が自信になります。チームが良くなっている実感があります」
主力が抜けて低空飛行が続いた三河だが、ようやく個々の戦力がまとまり、チームとして力を発揮できるようになってきた。今回の代表活動によるリーグ中断期間は、三河にとっては最高の準備期間となる。「ゲームの中でもったいないミスも多いので、3週間のブレイクでそこを修正できればもっと強くなれます。終盤戦の20試合も含めてチームとして向上していければ、チャンピオンシップでも上に行ける可能性が出て来ると僕は信じています」
狩俣の言葉は自信に満ちている。三河のすべての選手が同じ自信を持っているのだろう。過密日程が続いていただけに、多くのチームが今は休養を優先しているが、三河は練習を続けている。あと2カ月でどんなチームに仕上るのか、引き続き注目したい。
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