渡邊雄太

来シーズンの戦力を見極めるサバイバルレース

渡邊雄太はサンズからグリズリーズへとトレードされました。2018年にドラフト外の2ウェイプレーヤーとしてNBAデビューした古巣に4年ぶりに戻ることになり、成長した姿を示したいところです。ただ、今のグリズリーズは再建が始まった当時とは全く違うチームになっています。

2019年にタイラー・ジェンキンスがヘッドコーチに就任し、その年のドラフトでジャ・モラントを指名してからのグリズリーズは、リーグ屈指のライジングチームとして2021-22シーズン、2022-23シーズンと続けて西カンファレンス2位と強豪の仲間入りを果たしました。モラントがプライベートで問題行動による長期出場停止の末にケガでシーズンアウトとなり、他にも主力にケガ人が続出したことで今シーズンは早々にあきらめることになりましたが、来シーズンに向けて渡邊を含めた新戦力を試していくことになります。

グリズリーズ最大の特長はドラフトと育成にあります。再建の中心と位置づけられたモラントとジェイレン・ジャクソンJr.以外は上位指名ではなかったものの、デズモンド・ベインに代表されるフィジカルとシュート力を持った選手を揃え、オフェンスではスペーシングとポジショニングを、ディフェンスではカバーリングとローテーションを徹底させることで、多くの若手をオンボールだけでなくオフボールでも働ける選手へと育ててきました。他のチームなら経験を重ねてきたベテランに任せる役割を若手でもこなしてしまうのはグリズリーズならではの特長です。

速攻での得点やオフェンスリバウンドは常にリーグ上位に位置しており、チームのためにハードワークをする選手でなければグリズリーズで生き残ることはできません。今シーズンはケガ人続出の中でチャンスをつかんだドラフト外ルーキーのビンス・ウィリアムスJr.が、ハッスルプレーで信頼を重ねてスターターまでのし上がっており、ネームバリューに関係なく常にレベルの高いチーム内競争を選手に強いるシビアな環境でもあります。

モラントという絶対的なエースはいるものの、誰もがアグレッシブに点を取りに行くのもグリズリーズらしさです。パスを受ける前に相手ディフェンスの状況を見極め、プレー判断を早くすることがチームの共通理解になっており、特に適切なパス判断と3ポイントシュートを打ち切ることは重要で、キャッチ&シュートのアテンプトはリーグトップになっています。

2021-22シーズンはプレーオフでもセカンドラウンドまで進み、優勝も視界に入り始めたのですが、昨シーズンにモラントの事件が発生して暗雲が漂い始めると、そのモラントの出場停止から今シーズンは一気に崩れてしまいました。それは全員が活躍するバランスアタックのチームにおいて、モラントの存在感が高まりすぎたことで起きた崩壊にも見えます。来シーズンに優勝争いへ復帰するためにも、戦力の底上げと戦術の再徹底は必要不可欠で、層は厚いとは言え新たに主力となれる選手は必要としているはずです。

サンズで出場機会を失った渡邊にとって、慣れ親しんだ環境でプレータイムを得られる今回のトレードは良いチャンスになります。トレードから初めての試合となったペリカンズ戦では25分のプレーで11得点とアピールしましたが、同じくデッドラインのトレードで加わったラマー・スティーブンスも26分で10得点7リバウンドと結果を残しています。どちらもグリズリーズが求めるハードワークと徹底したチームプレーで輝くタイプだけに、来シーズンの戦力を見極めるサバイバルレースがスタートしたと見ていいのかもしれません。

このレースで勝ち残るためには、安定した3ポイントシュートは大前提として、自分が打たなかったときには献身的にリバウンドに飛び込み、攻守の切り替えで誰よりも早く走り出し、積極的にボールに絡むプレーをしながらも、チームメートを助けるオフボールでの仕事も繰り返さなければいけません。ガムシャラなハードワークと、冷静な判断能力を同時に発揮する必要がありますが、そこは他の若手が持たない4チームを渡り歩いた経験値の見せどころでもあります。若手ばかりのグリズリーズで29歳の渡邊はデリック・ローズに次ぐ年長者なだけに、新たな戦術やチームメートにも即座にフィットできる利便性の高さで存在価値をアピールしたいところ。来シーズンもグリズリーズに残るかどうかは別にしても、渡邊にとってはもう若くない中でNBAプレーヤーとしての自分の価値を再び示す機会となります。