パスカル・シアカム&マサイ・ウジリ

マサイ・ウジリ「カルチャーは受け継がれている」

ラプターズはOG・アヌノビーとパスカル・シアカムをトレードで放出し、再建へと舵を切った。2018-19シーズンにウォリアーズのスリー・ピートを阻んでNBA優勝を果たした後、カワイ・レナードを除くコアメンバーは残っていても持続的な成功は収められなかった。新型コロナウイルスのパンデミックにより、NBAで唯一カナダのチームであるラプターズは国境をまたいだ移動の制限を課せられてトロントで試合を行えなくなったことも大きいが、サラリーキャップの制限でカイル・ラウリーを手放さざるを得ず、そして昨年秋にはフレッド・バンブリートも退団。このタイミングでアヌノビーとシアカムを放出し、これで優勝を知る選手はクリス・ブーシェイのみとなった。

今回の2つのトレードで、ラプターズは1巡目指名権3つと2巡目指名権1つ、RJ・バレットとイマニュエル・クイックリー、ブルース・ブラウン、ジョーダン・ウォーラ、カイラ・ルイスJr.を得ている。ただ、チームとしての戦力低下は否めず、しばらくは再建の苦労を味わうことになる。

ラプターズで球団社長を務めるマサイ・ウジリは会見を開き、今回のトレードとチームの方針を説明した。メディアとファンの一番の疑問は、アヌノビーとシアカム、さかのぼってはバンブリートを引き留めることはできなかったのかという点と、引き留められないのであればチーム解体の決断はもっと早い段階で行うべきではなかったのかという点だ。

「フリーエージェントの不確実性は大きな要因で、状況をつかむのに時間が必要だった」とウジリは言う。「スコッティ・バーンズの台頭があり、チーム全体が若返っていることも含めて決断した。新たなサラリーキャップのルールにより、今後の市場は大きく変わる。その時、我々が柔軟性を持っていることはいずれプラスに働くだろう」

バンブリート、アヌノビー、シアカムに過度な大型契約を与えることは、中長期的な視野に立てばチームにとってプラスにならない。ウジリはそう判断してもなお、心情的には彼らの放出を避けたかったことを隠そうとはしなかった。

「バーンズとバレット、クイックリーは今後長くチームの主力となるだろう。彼らのポテンシャルには期待できる。ダーコ(ラジャコビッチ)のバスケは選手たちの成長を助けてくれる。必要な選手を加えつつ、チームの改善を見続けたい。そのためには我慢が必要で、今のNBAではあまり見られなくなっているが、私は粘り強く見守るつもりだ」

そして話はシアカムとの別れに戻る。アフリカにルーツを持つウジリにとって、カメルーン出身のシアカムを見いだして成功へと導いたことは特別な経験だ。シアカムとの一番の思い出を問われると、ウジリは様々な思いを巡らせて涙を流し、気持ちを落ち着けるまでにかなりの時間を要した。

「アフリカ人としてNBA優勝をパスカルと共有できたこと、彼の父親のことを思い出すよ。パスカルとは『バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ』で出会ったが、当時の彼は神学校に通っていて、南アフリカに住む妹に会うためにキャンプに参加して、その後は学校に戻るつもりだった。そんな出発点からNBAで成功を収めたアフリカ出身選手の代表格となり、得点だけでなくあらゆるプレーでチームに貢献し、優勝もオールスターも経験した。彼がどこにいようとも、彼の成功は私の成功なんだ」

そのシアカムを放出する決断は、他ならぬ彼が下したもの。この仕事をする一番の苦しみは、移籍を伝える時だとウジリは言う。「SNSに出ているような簡単なものじゃない。バンブリートは私に(退団を伝える)電話をかけるのがラプターズ時代を通して一番つらいと言った。私も同じで、デマー・デローザンにトレードを宣告する時、電話をかける勇気を得るまでに夜中に2時間ホテルの部屋を歩き回った。ドウェイン・ケーシーやニック・ナースに解任を告げる時も勇気が必要だった。コーチ・オブ・ザ・イヤーのオフィスまで歩いていくのが、本当に気が重かった。それがこの仕事で一番難しいことだ」

シアカムとは昨夏の契約交渉が上手くいかなかった時点で、かなり険悪な言い合いをしたとウジリは明かす。「答えが見つからずにそうなったが、過剰な言い合いになったのも私たちの関係性があってこそだ。だがこのトレードに至るまで、我々はすごく良い会話ができた」

ラプターズの一時代が終わり、ウジリにとっても重要な一時代が終わった。だがシーズンはまだ続いているし、彼の仕事に終わりはない。「これまでの選手が築いたカルチャーは若い選手たちに受け継がれている。世代交代があり、新たな選手はまた違った個性を持っているが、チームのカルチャーを植え付ける努力は続けていきたい。私は選手もスタッフも正しく扱い、正しい方法でチームを築いていく。ここトロントで勝つことに私は誇りを持っている」