片峯聡太  

絶対的なエースだった川島悠翔が3月にチームを離れ、経験の足りない状況からスタートした福岡大学附属大濠は、1年の最後にバランスの良いチームにきっちりと仕上げてウインターカップを迎える。チームのスローガンは『US』(私たち)。一人が頑張ったら他の選手がそれに続いて大きな波を作る、大濠はそんな全員バスケでウインターカップに挑む。

「一生懸命やるのを私がしっかり見てあげること」

──今年のチーム作りは、川島悠翔選手がNBAグローバルアカデミーに行くためにチームを離れるところからのスタートとなりました。この1年、チーム作りはどのように進んできましたか。

今年は『US』(私たち)というスローガンを立てました。 今の3年生は約20名と今までにない大人数で、そんな彼らが最上級生になった時に、それぞれ自分のやりたいことをやっていてはチームがまとまりません。そういった意味で最上級生が「僕が」より「僕たちが」という目線でチームに向き合ってくれたら、後輩たちもイキイキとノビノビとやれて、チームとしても良くなっていくと考えました。

3月に主力だった川島が抜けても戦力的にはまずまず良いものがあったのですが、ケガ人が出たりして思うような結果が出ず、選手が自信をつける機会があまりありませんでした。実は今年のメンバーは、去年ゲームに絡んでいた選手がほとんどいません。川島はスタートでしたし、渡邉伶音もちょこちょこ出てはいたのですが、残りの選手は勝っている試合の残り数分の出場ぐらいで、しっかりゲームに絡んでいませんでした。新チームになって最初の3カ月は、高校でのゲームキャリア不足が露呈して、なかなか上手くいきませんでした。

──選手の人数が多いことでの難しさもあったように思います。

バスケットの能力が高い子もいれば、そうじゃない子もいます。学校生活で勉強が得意な子も苦手な子もいるのと同じで、いろんな子たちをまとめるのが大変だというのは今年1年間での学びでした。一生懸命が報われるばかりではありませんが、一生懸命やるのを私がしっかり見てあげること、認めてあげることは、チームをまとめるにあたってすごく大事だとあらためて気づかされました。

福岡大学附属大濠

「最初に手を挙げて『俺がやるぜ』という人に」

──選手への接し方、言葉の掛け方で意識していることはありますか?

どの選手にも一日一回は何らかの言葉のキャッチボールをすることを意識しています。学校生活とバスケットコートでは、私は敢えて切り替えるようにしています。例えばバスケのことで私に叱られることがあっても、コートを離れれば普通に接しますし、勝ち負けを学校生活には持ち込まない。それはそれ、これはこれ、というメリハリをできるだけ付けるようにしたいです。特に1年生だと、コートで怒られたら学校でも私が通ると避けるような子もいて(笑)。でも私は全部が全部ダメという厳しい性格ではなく、バランスを取って物事を進めていきたいタイプです。良い意味での緊張感はあるべきだと思いますが、私との会話は上級生になるにつれて良い形になっていってほしいですね。

──バスケにしろ学校生活にしろ、この年代の子たちにどこまで主体性を求めますか。

家庭環境もバスケの環境もあるので一概には言えません。人それぞれですね。失敗は良くない、間違うことが恥ずかしいという環境で育った選手たちは、失敗を恐れて自分から飛び込むことがなかなかできません。できてないことを隠したりごまかすこともあります。ただ、それまでの環境や境遇を否定するわけにはいかないので、まずは「この子は今そういう状態なんだ」というのを見極めて、それぞれにニュアンスや言い方を変えたりしながらアプローチしています。

失敗をすることを前提に無茶苦茶やるのは違うので、失敗したとしても内容を見極めて、慌てず3年間かけるつもりで少しずつアプローチしていくことで、殻が破れるようになってくるのかなと思います。

──気配りする部分と、鼓舞する部分のバランスはどう取りますか。

基本的に自分のやり方を押し付けるのは好きではありません。選手たちによく言うのは『ファーストペンギン』の話で、 最初に手を挙げて「俺がやるぜ」という人になってほしいんです。指導者としてより人として、そういう思いは持っています。ウチには悪い子は一人もいません。真面目で良い子ばかりですが、でもやっぱり少し受け身で、流されやすいところがあります。だからこそ頑張って最初に手を挙げられる人になってほしいし、何人か少しずつできるようになってきました。ただチームは組織で動きますから、ファーストペンギンが海に飛び込むのを見て、セカンドペンギン、サードペンギンと続かなければいけないのですが、誰か一人が頑張っているのを「頑張ってるね」と見ている状態もすごく多いと感じています。そこで頑張る選手がどんどん増えて、自分たちで大きな波を作っていくようなチームの厚みを、今は選手たちに求めています。

福岡大学附属大濠

「自分たちで流れを作れるチームになってほしい」

──今年の大濠はどんなチームですか。

渡邉伶音と広瀬孝一というサイズのある選手がいて、ガードでは榎木璃旺が成長し、三輪大和もいます。シュートが得意な湧川裕斗や高田将吾がウイングにいて、岩下愛育がディフェンスだとか走ったりとかで4番ポジションで使えたり、バランスの良いチームに仕上げられたと思っています。ただウインターカップの5試合を見据えた場合、40分間を5試合続けるのは体力的に非現実的で、最初は25分ぐらいにしながら一番大事なゲームは35分出るように。そのために繋ぎの時間をどうするか。そこで少しサイズを落とした機動力のあるチームができつつあるので、バランスの取れたメンバーと、機動力のあるタフなメンバーを最終的に融合させられれば理想形となります。

ただ、やはりタフであり続ける強さが大事です。個々が頑張って、その頑張りをチームとして繋げることがチームスポーツの一番ワクワクする部分だと私は思います。だからこの最後の期間で、特に3年生が自分たちで流れを作れるチームになってほしい。たった5試合の大会だからこそ、そうやって波に乗れるチームが有利だと思っています。

──トーナメントの組み合わせを見て思うことはありますか?

留学生のいるチームが勝ち進んで、ウチは初戦から決勝までずっと留学生のいるチームとの対戦になるのかなと思います。ただ、留学生がいるかどうかは関係なく、自分たちのバランスの取れたバスケ、また機動力の融合をどれだけ突き詰められるかが結局は大事になるので、相手の対応よりも自分たちのバスケをしっかり意識して、頑張っていきたいです。

──今年は飯塚市長だったお父様が亡くなりました。片峯コーチとしては特別な思いで臨むウインターカップになるのではありませんか。

そうですね。地元の飯塚市に大きな体育館が建って、その柿落としで開志国際、東山、福岡第一と大濠で試合をしたところから今年度が始まっています。親父はもう天国に行ってしまいましたが、ウインターカップもきっと応援してくれていると思いますので、一戦一勝でメインコート、そして決勝の舞台に立つ姿を見せたいと思います。

──では最後に、ファンの皆様にメッセージをお願いします。

いつも大濠高校トロージャンズの応援をしていただいてありがとうございます。今年もたくさんの人に、勇気と感動を与えられるような試合を、一戦一戦大切に頑張っていきたいと思います。熱い声援をよろしくお願いします!